
1 「子供が被害に遭わなくて、よかったと思ってるんでしょ。命は平等と言っておきながら!」
「よく疑われるんですけど、私、本当にスズキっていうんです。正真正銘、スズキタゴサクです」
「まあ、いいや。じゃあ、スズキさん。今日は何で酔ってたの?」と野方署の等々力刑事。
| スズキタゴサク(左)と等々力刑事(中央) |
スズキは色々御託を述べるが、結局、酒に酔って酒屋の自動販売機を蹴りつけ、破壊し、店主を殴り飛ばして警察に通報され、逮捕されたのだった。
修理代や治療代を払って穏便に済ますこともできると等々力に持ち掛けられたが、金を払う能力がないスズキは、自分には霊感があるので、警察の役に立つと言い出す。
「何だろう。事件が起こる気配です」
等々力は振り返ると、部下の伊勢は呆れて顔を横に振った。
「10時ぴったり。秋葉原の方で、きっと何かありますよ」
その直後に、秋葉原の広場で実際に爆発が起き、車が吹っ飛び、辺りは騒然となる。
一端、部屋から出た伊勢が戻り、等々力に耳打ちする。
「あなたのことが気に入りました。あなた以外とは何も話したくありません。私の霊感じゃ、ここから3回、次は1時間後に爆発します」
そして実際、東京ドームシティで爆発事件が起こり、警察を震撼させる。
警視庁捜査一課、強行犯捜査係の清宮と、同課の交渉人・類家が野方署にやって来た。
ここから警視庁が前面に出て、捜査を指揮することになる。
「スズキさん。私はあなたしかいないと思ってます。この非道な犯罪を止められるのは」と清宮。
| 清宮(左) |
「大変、申し訳ないんですが、さっきから霊感がちっとも働いてくれなくて」
「心の形」を知るために、スズキは清宮に「九つの尻尾」(スズキが九つの質問する)という言葉遊びのクイズを提示し、それに清宮が答えるというゲームが始まった。
その中で「ハセベユウコウ」という名が出て、清宮は驚く。
【長谷部有孔は野方署のベテラン刑事で、かつて等々力とコンビを組んでいた】
「奴(スズキ)の目的は破壊行為そのものではない。目的は世間に対する自己主張。能力の証明だ」
清宮は類家に断言した。
一方、沼袋交番勤務・巡査の矢吹と倖田は聞き込みに回っているが、動画を撮られたばかりか、聞き込みの主が非協力な態度なので、「この部屋の便所が爆発すりゃいいのにな」(矢吹)「同感」(幸田)と言い合って帰って行く。
| 矢吹(左)と倖田 |
清宮との「九つの尻尾」ゲームが、7問目まできている。
「被害に遭ったご夫婦の片方は生きていますか?」
「今のところは」
「はあ~、うーん、私が有罪にでもなったら、その旦那さんは私を殺したくなるんでしょうね。じゃなきゃ、奥さんを愛してなかったことになっちゃいます」
「ならないですよ。復讐と愛情はイコールじゃない」
「本当にそうですか。もし法律で復讐が認められているとして、刑事さんの奥様が犯されて、無惨に殺されたら刑事さんもするでしょう、復讐」
その後のスズキの遠回しで訳ありの言葉を分析する捜査本部(野方署内)は、「九段下の新聞販売所」がターゲットになっていると読み取って行動するが、事件が実際に起こった。
矢吹と倖田もまた、新聞販売所のオートバイが狙われていると考え、危うく難を免れる。
類家は等々力に、長谷部の家族、現在は旧姓の石川明日香になっている人物に会いに行ってもらえないかと依頼する。
| 類家(右) |
署内で唯一、長谷部のバディだったのが等々力だからである。
スズキとのゲームも佳境に入っている。
「多分、11時です。次の爆発。私の霊感が確かなら」とスズキ。
「信じますよ」と清宮。
瞬時に、会話記録を取っている野方署の巡査長・伊勢が動く。
「ねえ、清宮さん。命は平等って本当ですか?」とスズキ。
「そうじゃないと?」と清宮。
「勿論です。だって私と総理大臣比べて同じだなんて、誰も思うわけがない」
「社会的地位と命は別です」
「でも似たようなこと、どこにでもありますでしょう?学校でも職場でも、皆、他人の命のランクづけに勤しんでる」
「だからこそ、法律や制度があるんですよ」
「でも法律は、私を救っちゃくれませんでした。社会も制度も、皆、私を無視して相手にせず、私が野垂れ死のうが、無差別殺人犯になろうが、自分とは関係ないんです」
類家がじっと聞いている。
「神様も仏さまも草木すら、私のことなんか無視です。でもホームレスっていますでしょ?あれはどうしたって嫌われますね。理由は色々ありますけど、とにかく臭いんです。かくゆう私も、そのお仲間でしたけど」
ここで、スズキが指を立てている。
清宮が気づき、類家を見る。
「可能性って素敵な言葉です。同時に残酷な言葉でもありますでしょう?それは、どんどん減っていくものだって。だから、そういう時は酒を飲んで、うとうと、うとうと眠ってしまうんです。でも最近、困ったことがあるんです。昼間、家の外から元気な歌声が聞こえるようになったんです。幼稚園か保育園ができたんですね。眠ってしまいたいのに、歌が聞こえてくる。だから…だから…たま~に思うんです。なあ君たち、ちょーと、静かにしてくれないかと…」
ここで2本目の指を立てるスズキ。
「貴様…」と清宮。
「確かに私には、可能性のかけらもありませんが、いっちょ前に性欲はあるんです。とはいえ、年も年ですし、ここ最近は、性欲の方はめっきり減退傾向ですが、それでも時折、紳士な夜と猛る夜、2つの夜がやってきます。夜は繰り返す、それは決まって木曜日に」
3本目の指を立てる。
「理性と野生って対極に見えて、合わせて1本でしょう?けれど一緒には選べません。二兎を追うものは一兎も得ず。大山鳴動して鼠一匹、何てことわざもありますしね。しかし鼠っていうのは、どうしてああも群れるんでしょうかねえ。キャーキャーチューチュー。馬は静かなもんですね。じっと餌場に並んで檻のゲートにしっかり並んでね。重要なのはね、清宮さん。清宮さんが、ちゃーんと選べるかってことなんです」
4本目の指を立てる。
清宮が立ち上がり、「子供だ…爆弾が仕掛けられているのは、幼稚園か保育園か?」とスズキに迫る。
「間違ってないですよ、多分」とスズキ。
部屋を出て行く清宮。
「清宮さん、ダメです。まだ足りない」と類家が追って声をかける。
「何がだ。クイズは出てる。解けばいい」
「無理です。このままじゃ負ける」
「お前ならやれる。お前にならできる。解け」
捜査本部で、類家はクイズを解くのに迷っている。
そんな中、矢吹と倖田に対して、類家が特定した代々木への応援要請が命じられた。
「清宮さん、覚悟をしておいた方がいい」と類家。
「至急至急!代々木あけぼの保育園の裏庭に爆発物と思われる小包発見!」
一方、用足しをしているスズキを監視する伊勢に対し、「怖がらないでくださいよ」と声をかけると、伊勢はスズキの胸倉を掴み、壁に押し付けた。
「ふざけんなよ、てめえ。お前はそんな大層なもんじゃねえ。ただの変態で、ただの人殺しだ」
| 伊勢(右) |
スズキは、伊勢の手柄になるならと、スマホを失くした場所を教えると言い出す。
伊勢は持ち場を離れられないと答えると、スズキは代わりに電話で指示するように促す。
代々木の保育園で爆発物を捜査している矢吹の元に、スマホの場所を知らせるタレコミがあった。
現場を離れる旨を倖田に伝えると、早速、一緒に行くと現本(現地対策本部)に移動の連絡を入れた。
二人は喫茶店に入り、マスターからスズキのスマホを受け取る。
スマホのカバーが外れると、住所が書かれたシールが貼られていた。
その頃、等々力は、類家に頼まれていた長谷部の妻の家を訪ねていた。
| 長谷部の妻 |
「長谷部が死んで、すぐ鉄道会社から損害賠償の申し立てがありました。目の前が真っ暗になる額です。週刊誌の報道があってから、昼も夜もマスコミに追われて、娘も息子も肩身の狭い思いをしたはずです。それでも、何かの間違いだと信じていました」
「記事は本当だ。俺は恥ずかしい人間だよ」
| 長谷部 |
家族の前での、当時の長谷部有孔の告白である。
| 美海 |
辰馬は部屋でネット検索して、自らの写真付きで中傷される投稿を見て、泣き崩れるのだ。
| 辰馬 |
長谷部は妻に離婚届を差し出した数日後、駅のホームで命を絶ってしまったのだった。
「私がここに暮せているのも、あの子のお陰です」
長谷部の元妻の言葉である。
「あの子」とは、現在、スタイリストの美海のこと。
行方不明になっている辰馬の状況下で、家族離散の運命を負い、立ち直った美海の支えで日常を繋ぐ母と娘。
【長谷部のスキャンダルとは、事件現場で自慰行為に耽っていたこと。これは週刊誌の表紙と刑事同士の会話で判然とする。更に、長谷部と親しかった等々力は同僚の井筒刑事に、「長谷部さんは診療クリニックに通っていた。そこの医者が小銭欲しさにリークしたんだ」と話している。その等々力が長谷部にカウンセリングを勧めたというのだ。長谷部の自慰行為を等々力が目撃したからである】
| 等々力と井筒(左) |
| 自慰行為を等々力に見られ、後ろを振り返る長谷部 |
井筒のもとに、石川辰馬の現住所が判明したという連絡が入った。
| 井筒(手前) |
一方、スズキと清宮のゲームが続いている。
ゲーム8。
「その話をしてください」と清宮。
「ずーとしてます」とスズキ。
「…」
「清宮さん。曲がってますよ、タイピン」
清宮のスマホに緊急連絡。
代々木公園で爆発が起こり、路上生活者、ボランティア30名が巻き込まれ、死傷者多数を出していた。
「私、言いましたでしょう。重要なのはね、清宮さん。あなたがちゃんと選べるかってことなんです。これが最後の質問です」
そう言って、清宮を人差し指で差す。
「今、ホッとしていますか?」
怒った清宮は、スズキの指を強く締めつけ、骨を折ってしまう。
折られた指を押さえながら、スズキは叫ぶ。
「子供が被害に遭わなくて、よかったと思ってるんでしょ。命は平等と言っておきながら!」
清宮に迫って、言い放つスズキ。
「これがあなたの心の形です」
膝から崩れ落ちる清宮。
「次のお相手は誰ですか?」とスズキ。
「次?あと3回というのは嘘だったのか」と類家。
「まさか。秋葉原からここまでが1回戦です。ここから2回戦に入るということです」とスズキ。
映像は一転して、伊勢からスズキのスマホ場所を電話で聞いた元同僚の沼袋交番の矢吹と倖田が、一軒家(シェアハウス)に恐る恐る入っていく。
ゴミだらけの家に入っていくと、男の声が聞こえてくる。
「若いカウンセラーがマニュアル通りのくだらないことばかり聞くから、つい詐欺師だと罵ってしまった。報道の通り、俺はああいうことを…何度も何度もしていた。カウンセリングを受けたが…ダメだった」
長谷部が映って、語りかけているのだった。
「これで最後になると思うから、お前たちに伝えておきたい。強く…家族じゃないか。生き抜いてほしい。何度も立派な父親であろうと努力したが…」
長谷部の映像を見た倖田は、「誰に向けた映像なんだろう」と呟く。
「何で、こんな映像がここで流れてんだよ」と矢吹。
矢吹がドアを開けると、ビニールを被り、血に染まった人間が椅子に座っているのだ。
遺体だった。
矢吹が近づいていくと遺体が爆発し、吹き飛ばされるが、瞬時に倖田を庇っていた。
眼を開けた倖田は、爆発で倒れている矢吹を救おうとするが動かない。
そこに等々力と井筒が入って来て、驚愕する。
事件は、とんでもない状況を開いていくのだ。
2 「あんたの目的は真犯人になること。邪悪な黒幕。怪物を演じ切ること」
スズキとの終わりの見えないゲームでは、清宮の代わりに類家が継ぐことになった。
「道の向こうで襲われている人間を、赤信号だからといって規律通り傍観しますか?あなたが無理なら、俺がやる」
捜査本部長からの電話で、「責任は取ってもらうぞ」と厳しく叱責され、「お任せください。必ず落とします」と反応する清宮には、今や、手立ては類家しかいなかった。
「じゃあ、始めましょうかスズキさん、化け物退治を」と類家。
「無礼な人ですね、あなた」
ここから、爆弾事件の実相を巡る、二人の男の言葉の戦争が開かれていく。
「凄い、凄いです。嫌みったらしさが咲き乱れてます!」
「2回戦目を始めましょう。爆弾を全て見つけられたら私の勝ちだ。ついでに事件の全容も明かして見せますよ」
ここで、矢吹の一件が報告され、「もう始まってるみたいです、2回戦」とスズキ。
ここで類家に連絡が入り、矢吹の一件、即ち、爆発で死んだのが長谷部の息子(辰馬)の可能性が高いということを知る。
「一緒に暮してたの?矢吹巡査長は、あんたの誘導でシェアハウスに行ったんだろ。だったら、あんたと長谷部の息子・辰馬が関係してるって考えるのは当然だろ」と類家。
早口の口調で話し続ける類家。
「何の話ですか?」
「この爆発が2回戦目?これで残りは1戦ってこと?」
「どうでしょうか」
「正午に何かあるんじゃない?あんたのタイムスケジュール、結構ちゃんとしてるもんな。ウチらの動きをしっかり計算できている感じ。それに等々力さんが交代になるって知ってたろ?俺らみたいな専門部署が引き継ぐって分かった上で彼を希望し、この部屋を動かない駆け引きに利用した」
「何がおっしゃりたいんです?」
「警察に詳しい辰馬からアドバイスがあったとか?父親が自殺した後、ふぬけになった辰馬は、家族の元から離れている。どこで暮らしていたのかなー。案外、代々木公園だったりしてね。彼の紹介でシェアハウスに住むようになったって、悪くない推理だと思わない?」
「私が爆弾魔だったとして、この辰馬って人と共犯だと?」
「あり得るでしょ?ドラゴンズファンってのも、長谷部親子からの拝借なんだろ?あんたが殺したの?」
「なぜ、私が辰馬さんを殺さなくちゃいけないんです?」
「それを、これから解いてやるよ」
「うーん、何だか気分が悪くなってきました。霊感が働く気がしません」
「いいよ、別に」
「いい?爆弾がボカンとしても?」
「うん、俺そういうの気にしないから。いつでも、どこでも人は死ぬ。違う?」
「正午に爆発するとは思わないんですか?」
「しないんじゃない?爆発なら、あんた勝負してくるだろ。正午は、せいぜい前座のくだらないパフォーマンス。盛り上げるだけ盛り上げて、メインはそのあと。三流ライターのシナリオだ」
「あなた、皆から嫌われてません?」
「知らないよ。普段、猫かぶってるし」
「そうですか。ところであなたは、人を殺したいと思ったことはありますか?」
「あるよ。あるに決まってんだろ。来る日も来る日も思ってる」
「なぜ殺らないんです?きっと捕まらない方法もご存じでしょ?」
「面倒だからだよ。割に合わない」
「“殺人は悪いからダメ”ではないと?」
「あっ、そういう答えが欲しかった?良識を揺さぶるやり方、俺には通用しないから」
「あなた、本当に優秀ですね。こんな状況なのに、一切迷いがない。容赦もない」
「類家だよ。ル・イ・ケ」
「私、こんな風に思うんです。くだらない人間と優秀過ぎる人間は、同じ結論に行き着くんじゃないかって。私とあなた、実はすごく近しいんじゃないかって」
正午となり、アプリの音がして目を遣る類家。
「クソが」
病院の待合室。
倖田が等々力に矢吹の足や肋骨、内臓の激しい損傷について報告する。
等々力は、本部に戻って説明するよう指示するが、倖田は憔悴し切って無理だと答える。
「気になることもある。トラップを踏んだ矢吹より、石川辰馬の方が、損傷がずっと激しかった。不自然と言えば不自然だ」
その時、等々力の携帯に類家からのメッセージが届いた。
それは、スズキタゴサクがこれと見込んだSNSアカウント、ブログサイト、テレビ局やラジオ局、雑誌や新聞社に一斉送信されていると話すところから始まる。
「皆さんに警告です。都内に爆弾を仕掛けました。いくつもいくつも仕掛けました。ある条件が満たされた時、それは容赦なく爆発します。それは1秒後かもしれないし、10年後の可能性もあります。これは無差別テロではありません。厳正な審査のもと、選別した上で裁きは下されます。浮浪者は殺します。臭いからです。妊婦さんは殺します。面積が広いからです。フェミニストは殺します。生意気だからです。外国人は殺します。あいつらみんな、ギャングかスパイです。前科者は殺します。どうせ再犯するからです。老人は殺します。うっとうしいからです。独身貴族は殺します。子孫を増やす気がないからです。同じ理由で3人家族は殺します。努力が足りないからです。幸せいっぱいの家族もです。不幸は分かち合うべきだからです。金持ちは殺します。妬ましいからです。人権弁護士は殺します。お高くとまってるからです。政治家は殺します。悪いのは全部お前らです。最後になりますが、私はこれを読まされています。私は事件の犯人ではありません。犯人に脅されているんです。犯人は催眠術の達人で、私の記憶は、この後、すっかり消されるそうです。以上、スズキタゴサクが中野区野方警察署よりお伝えしました。ごきげんよう。さようなら」
一部始終を見終えた等々力と倖田。
「戻ります。私がすべきことをします」
倖田は等々力に深く頭を下げ、戻って行った。
この動画を多くの市民が見て、訝ったり、他人事のように笑って反応したりしている。
その頃、シェアハウス(複数人が共同で暮らす賃貸物件)の2人の住人の遺体が発見された。
「2人とも毒を飲んで死んでたってさ。となると自殺かなあ。そこに住んでたなら、面識はあるはずだけどね」と類家。
「覚えていません。あ、忘れさせられました」
「あ、共犯説。この事件はチームプレー。シェアハウスに住んでいた奴らで計画し実行。そう考えると、いろいろ辻褄が合うんだよな。死体で見つかったうちの1人、梶は九段下の新聞販売所で働いていた経歴があるとさっき判明した。代々木公園の炊き出しは、タゴちゃん、あんただ。昔あそこにいたことがあるんだろ。この先、秋葉原やドームシティとの関わりも出てくるかもね。事件のリーダーは3人の誰か。あんたは兵隊に過ぎない。リーダーは石川辰馬、に俺は1票かなあ。爆弾を作れる知識。危険物取り扱いの資格も持ってる。おまけに化粧品会社の研究員。職場には、色々な物があるもんな。1人だけ爆発してるのも意味深だしね」
「あなた、昔から周りの人間がバカに見えて仕方なかったんでしょ。例えば、目の前にボタンがあるとします。このボタンを押せば、どこかの国の市街地に爆弾が落ちるとします。沢山の人が死にます。でも代わりに大金がもらえます。なお且つ、あなたがボタンを押さなくとも、爆弾は落ちるとします。そうなったら、あなたはボタンを押すでしょう。何の躊躇いもなく。大部分が死ぬのなら、大金を手に入れて、その金で多少でも被害者の救済をした方がマシだと、そう判断する。その考えは、まともじゃないと糾弾する輩がいても、バカかと呆れるはずです。無意味な道徳を振りかざすバカなら、金が欲しくてボタンを押す奴らの方がマシだと思っている!」
怒り狂ったようなスズキタゴサクの声が、室内を響きわたっていた。
「自分勝手こそ、人間の真実だと。退屈で嘘に塗れた世の中に愛想を尽かしてるんでしょ?」
「勝手に決めつけんなよ。俺はあんたほどスレちゃいない。世の中、満更、捨てたもんじゃないと思ってるよ。この事件が片付いたら、ポークステーキ丼を腹いっぱい食う。死ぬほど眠る。それで十分やっていける。あんたにはないの?1つくらい。大事にしている何か」
「帽子ですかね」
「帽子?」
「昔、この10円禿を笑われていた頃、親切な仲間がくれたんです。ドラゴンズの帽子」
「それ、どこへやったの?」
「なくしてしまったんです。かぶり続けるつもりだったんですけど、“もういいや”って」
「まだ、あるんじゃない。動画だよ。第2弾があるだろ?さっきのボタンの話。自分を正当化して、ボタンを押す奴は想像してない。爆弾が自分の頭上に降ってくる可能性までは」
ここで類家は、人差し指で上を差す。
「あんた、全員を巻き込みたいんだ」と類家。
ここで再び、スズキタゴサクの動画が公開される。
「この動画が公開されないことを祈っています。なぜなら、これは先ほどの動画の拡散率が、ある上限に達した時点で配信されるプログラムになっています。結論から申し上げます。皆さんの1クリック1クリックのおかげで、目標は無事に達成されました。よって、あなたたちのせいで爆弾は爆発します」
ここで多くの若者が一斉に削除してゆく。
「これから爆弾は、都内の至るところで爆発します。探すのは無理だと思います。安全な場所もありません。ただ一か所、中野区の野方警察署を除いては。そして爆弾を止める唯一の方法をお教えします。それは私を殺すことです。そうすることで、私の体内に埋め込まれたホストマシンが停止します。そして私に催眠術をかけた真犯人に告ぐ。催眠が解けたら、全てを警察に話します」
【ホストマシンとは、ネットワーク経由で処理やサービスを提供するコンピュータ】
「この動画はフエイク。再生回数にリンクさせて起爆装置に信号を送る。恐らく無理だ」と類家。
「死にたいのか?」と清宮。
「ご冗談を。私は天寿を全うするつもりですよ。もし襲われそうになっても守ってくれますでしょ?皆さんで力を合わせて。私のことを」とスズキ。
「動くなよ、伊勢さん。痛めつけても、こいつを喜ばすだけだ。史上、稀に見るドM野郎だからな」と類家。
「そう言う、あなたはどうです?あなたは賢く、うまくやってきた。ただそれだけです。表面をなぞっただけの解釈。何となく気の利いたような説明。安全な理屈のミニチュアを一歩も踏み出してない!」
凄い叫びを上げるスズキ。
「もっと私を見たらどうです」
「御託は終わり?阿佐ヶ谷はもう探してるぞ」
「どこです?」
阿佐ヶ谷駅。
「辰馬が共犯者なら、必ずここは狙うはずだ。尊敬していた父親が自殺した場所」と類家。
「で、見つかったんです、爆弾?」
「探し始めたところだ。まだ余裕がある」
「なぜ、分かるんです?」
「次は4時だからだよ」
「あなたにも霊感が?」
「長谷部が列車に飛び込んだ時間だから。阿佐ヶ谷に爆弾がある。問題はどこにあるかだ。近年、セキュリティレベルは格段に上がっているはず…」
この時、倖田が取り調べ室に入って来た。
スズキを殺そうとするが、伊勢に捕捉されてしまう。
「これ、これ。これが欲しかったんです!怒り、憎しみ、殺意です!このお嬢さんは私を欲望してるんです。こんな幸福なことありますか!お嬢さん、すみません。私、射精しました」
怒りに歪んだ倖田の表情。
伊勢に押さえつけられている倖田。
「刑事さん、私、絶対に認めません。何十年でも裁判を続けます。世の中の人たちは、ずーと私を憎むでしょう?でも、あなたたちが守ってくれますからね」
「スズキ、俺が嫌ならこの人(倖田)に伝えろ。この人からもらった憎しみのお返しをしろ。阿佐ヶ谷の他に爆発するのはどこだ?」
「全部です。東京の丸ごとの駅」
野方署をめがけて、人々が走っていく。
ここで、辰馬が3人の仲間と話している。
「致死量を計算して計画しないと失敗するだけだよ。静脈に直接、ぶち込んだ方が確実だ」と辰馬。
| 辰馬 |
「死ねる確率が50%超えるか」と山際。
「間違いない」と梶。
一方、辰馬のことを調べている等々力は、井筒に倖田の行動は「分からなくもない」と吐露していた。
その等々力が、長谷部のことを回想する。
「自分は見なかったことにします。但し、カウンセリングを受けてもらうのが条件です。それでも長谷部さんは素晴らしい警察官だと俺は思う。今まであなたに憧れてきた俺の過去までなくなるのは嫌です」と等々力。
| 長谷部 |
スキャンダルになった長谷部について、記者に囲まれた等々力は「気持ちは分からなくもない」と答える。
この等々力の言葉を巡って開かれた所轄署の記者会見で、「現在、調査中なので、コメントは控えさせて頂きます」と答える署長。
「なぜ、長谷部さんを擁護したのか。あんなコメントしたのか。長谷部さんは仲間だったんだ。俺にとって、踏み越えるに値する1人だったんだ。彼が今まで貫いてきた正義は、全て否定されるのは違うと思う。ご家族も苦しんだろう」と等々力。
「石川辰馬も、あんなことになってしまいましたしね」と井筒。
阿佐ヶ谷駅。
復旧の目途が立っていないというアナウンス。
「爆弾は必ずある。4時までは客を入れちゃダメだ」と言って、清宮に強く求める類家。
「できるだけやってみる。その間に答えを出せ」と清宮。
この時、等々力から類家に電話が入る。
「阿佐ヶ谷の爆弾、缶やペットボトルの中の可能性があります。山脇は飲料メーカーの配達員。自販機の補充に来ていたという裏は取れました。駅の配達に回ることもあると。最初の酒屋も、山脇が仕事がてら、下見していたと思われます」
類家は、この重要な情報を現場に伝えるが、阿佐ヶ谷駅で避難解除されたことを知り、既に遅かった。
自販機で爆発が起こったのだ。
各駅でも爆発が起こり、東京はカオスの状態になっている。
「俺の負け。おめでとう。スズキタゴサク。これであんた、歴史に名を残したよ」
「お言葉を、そのままお返しします。大したものですよ、刑事さん…この事件、あなたなら、もっとうまくできたんじゃないですか?」
「まあ、できるだろうね。だけどやらない。やるわけがない」
「どうしてです?」
「つまらないんだよ。世の中を壊すなんて誰でもできる。壊すのを食い止める方が難しいし、ずっとやりがいがある。だから俺はそこで踏みとどまる。それにぶっちゃけ、俺はこう考えてるよ。あんたでも、もっとうまくできただろうって」
「どういう意味です?」
「爆発した駅名をクイズにしなかったのはどうして?できなかったんだろ?だって、それを知らされてなかったら。何で計画の全てを教えてもらえなかったか?理由は単純。あんたを仲間とは見なしてなかったから。それでもあんたは、この事件を“自分の事件”にしたかった。なぜか?まあ…俺の仕事は終わり」
「ねえ、刑事さん。これからですよ、3回戦は。まだ残っていますよ。最後の爆弾。今、ふと、頭をよぎった詩があります。“人といふ人の心に 一人づつ囚人がゐて うめくかなしさ”」
石川啄木の「一握の砂」の中に収められている詩である。
等々力から連絡があった。
「辰馬は、あそこに入る前は関西の化粧品メーカーで働いていたそうです」
井筒が声を挟む。
「それが本当なら、ホームレスだったスズキとの接点が分からなくなりますね」
「何で爆破した?」と等々力。
「えっ?」
「いや、何で辰馬の遺体だけ爆破させる必要があったんだ。山脇と梶の遺体は2階にあった」
「それは、入って来た人間を罠に嵌めるためじゃ?結果的に爆破したってだけで…」と井筒。
「おびき寄せるなら、長谷部さんの映像で十分だ。何で?…おい、スタイリストに近い職業って何だ」と等々力。
一方、取り調べ室では、伊勢がスズキの詩が石川啄木であることを指摘した。
「石川明日香が…お前の動機だったのか」と類家。
等々力は捜査本部に、石川明日香の逮捕を求めた。
「辰馬の遺体の方が、損傷が激しかったんです。辰馬は自殺ではなく、殺されていたんです。死因を隠すため、遺体を自然に破壊したのでは?スズキが明日香に頼まれてしかけたトラップです。明日香の前職はヘアメイクです。恐らくスズキの髪を切ったのも明日香。2人には接点がある」
「じゃあ、2本目の動画は?」と捜査本部長。
「明日香に向けられたもの。そして、彼女は最後の爆弾を持っているかも知れない」
「お前の妄想を信じろと?」と捜査本部長。
取り調べ室。
「あんたが親しくしていたホームレスは辰馬じゃなくて…明日香だったんだ」と類家。
スズキから食べ物を受け取る明日香。
| 石川明日香 |
「辰馬が暮らしたっていう気の毒なホームレス。それはあんたじゃない。明日香か。一家離散の後、明日香は路上暮らし。そこであんたと知り合った。やがて明日香は、辰馬にシェアハウスに招かれて、あんたより先にホームレスの暮らしから足を洗った。帽子をくれたのも明日香。しかし明日香は辰馬の計画を知ってしまった」
山脇と梶の死体を見る明日香。
「明日香は、バカなマネはやめるよう説得したはず」(類家)
| 辰馬を説得する明日香 |
「あたしを美海のとこに行かせたのは、こういうことだったのね」(明日香)
「脳裏によぎったのは、恐らく娘の美海さんのこと。ようやく立ち直ったのに、また…」(類家)
「電車を使わないように、美海に言っといてくれ」(辰馬)
「山脇と梶は辰馬に殺されたと俺は見るね。それを見た明日香は、辰馬の本気を確信した」(類家)
既にシェアハウスで共存していて、爆破計画を知った明日香は、息子の辰馬を殺害するに至る。
ホームレス時代に知り合ったスズキの元に明日香は向かい、助けを求める。
「その時、初めて辰馬たちの計画を明日香から聞かされた。そしてあんたは全ての身代わりを頼まれた。自分が利用されてると感じたんだな。だから厚意でもらった帽子を脱いだ」(類家)
夕空の下で、土手に立つスズキは帽子を捨てる。
「計画を自分好みに書き換える。シェアハウスのトラップも、元々は山脇と梶の死体を隠蔽するためのもの。あんたが作れっこないもんな。それから、あの動画。あれは元々、辰馬が作っていたものを、まんま自分に擦り替えたんだ。環状線の爆破は知っていたけど、どこの駅かは分からなかったんだろ?だから自分の事件に見せるために、秋葉原やドームシティ、九段下、代々木を加えた。混乱させるため。あんたの目的は真犯人になること。邪悪な黒幕。怪物を演じ切ること。送ったんだな、明日香に。最後の爆弾を。自分を殺させて、全てを終わらせるために」(類家)
野方署に押し寄せる人々の中に、明日香がいる。
野方署に入っていく明日香に、倖田が声をかける。
「息子さんのシェアハウスに最初に出向いたの、私なんです」
「そう…あの子は…」
そう言うや、倒れそうになる明日香。
「この建物にいるんだな。そのために人を集めたのか。誰が入り込んでも不自然じゃない状況を作った」(類家)
「ごめんなさい。色んなことがあり過ぎて…本当に、何でこんなことになってしまったのか。どうすればよかったのかしらね」と明日香。
「今日はどちらへ?ご案内いたします」と倖田。
「それじゃ、スズキの所へ案内して。この番号にコールすると、これが爆発する。あの人は、どうせ死刑になるんでしょ。だったら、私が殺しても一緒じゃない?」
「あなたまで殺人犯になってしまいます」
「もう手遅れよ。お願い、倖田さん。スズキの所へ連れてって。そして、全てを終わりにさせて」
「彼女は欲望してくれるでしょうねえ。私のことを求めてくれる」(スズキ)
倖田の説得を無視し、自らの携帯を使って起爆するが、爆発しなかった。
「でも本当は違う。最後の爆弾じゃない。明日香に送ったのはフェイク。最後の一個が爆発すれば、事件は終わる。でも、あんたは爆発させない。発見させない。そうすることで、俺たちを永遠に閉じ込める。あんたのゲームの中に」
明日香の元に等々力が連れて来た美海が「お母さん!」と声をかける。
これでもうダメになった。
捜査員が倖田から受け取ったリュックを調べる。
美海が駆け寄り母を抱き締める。
「あなた、生きてるの虚しくなりませんか?バカたちに囲まれて、嫌気が差したりしませんか。自分に能力を存分に振るってみたいと願ったことは?面白おかしく思うままに。刑事さん、私って、悪ですか?」(スズキ)
「悪だ。お前は悪だ」(清宮)
「あなたに聞いてるんですよ?くだらなさにうんざりしながら、それでも小理屈で武装して、従うふりを続けている、あなたに。どうなんです?」
「ああ、そうだ。うんざりしている。こんな世界、滅んじまえって」
泣き顔になりながら哄笑するスズキ。
「なあ、タゴちゃん。望んでない世の中、望まれない自分、明日香からの頼みを、“罪をかぶってほしいから”と受け取って、“もういいや”と思ったんだろ?本当に明日香は、あんたを最初から利用するつもりで呼びつけたのかな?。あのシェアハウスにはさ、山脇と梶の遺体もあった。罪をなすりつけるなら奴らでいい。死人に口なしだ。明日香の本心は、自首しろと命じてもらいたかったんじゃないか?信頼できる誰かから」
「単なる想像でしょう。奇麗事です」
「俺は逃げないよ。残酷からも、奇麗事からも」
手錠をかけられたスズキは、部屋を出て行く。
通路で立っていた等々力に声をかけるスズキ。
「また会えてよかった。あなた、秋葉原の爆発の後、私を応援してたでしょ。どうせなら全部ぶっ壊してしまえって。未曽有の殺戮の観客となって、昂揚感に包まれたんでしょ?この先も自分に嘘をつきながら、だらだらと生きていくんです?」
「だけどな、スズキ。俺はそれを不幸せとは思わないよ」
「なるほどです。あ~あの刑事さんに伝えてもらえますか。今回は引き分けですと」
「石川明日香は容疑の全てを否認し、以下のように供述している」(類家)
「自分はシェアハウスに住んでいない。スズキとは会ったこともない。辰馬から“おかしな男が住みつき、皆を洗脳している”と相談を受けていた。全てはスズキの仕業だと」
「スズキは一貫して霊感と記憶喪失、催眠を主張。動機や証拠の数々も、警察のでっち上げだと証言。なお身元は不明のままである…最後の爆弾は見つかっていない」(類家)
3 社会を自己基準で動かす男
全ては、野方警察署の刑事・長谷部有孔のセルフプレジャーから開かれた。
事件現場での、その行為を目撃した等々力が、「見なかった」ことにして上司に報告しない代わりに、カウンセリングを受診してもらうという条件をつけ、その通りにコトが進んでいく。
診療クリニックに通う長谷部だが、治癒の可能性に期待していなかったように思える。
だからカウンセラーと軋轢が生まれる。
映画は、物語のルーツである最も重要なこのシーンを削り取ってしまった。
生前の長谷部が家族に語ったシェアハウスのビデオで、「若いカウンセラーがマニュアル通りのくだらないことばかり聞くから、つい詐欺師だと罵ってしまった。…カウンセリングを受けたが…ダメだった」と吐露していたが、問題は、「詐欺師」呼ばわりされた若いカウンセラーの行動である。
心の歪みの矯正を求めているのに、患者の追い詰められた心理を読めないで進行する無益な時間だけが流れていき、結局、ギブアップすることになる。
直後、厄介な事態が発生することになる。
あろうことか、そのカウンセラーがメディアにリークしたのだ。
等々力が言うように「小銭欲しさ」の行動であると言うより、「詐欺師」呼ばわりされたことへの憤怒の炸裂と考えた方が正解だろう。
いずれにせよ、精神科医が自ら診た公人の病名をメディア等で発信する行為を禁じる「ゴールドウォータールール」に抵触する。
ここで看過できないのは、長谷部を庇い続ける等々力の心理には、「今まであなたに憧れてきた俺の過去までなくなるのは嫌です」と語るように、等々力のアイデンティティ崩壊への怖れの発現が垣間見えること。
この辺りは、群像劇でありながらスズキが中心の物語において、群像劇の群像性のセクション(一部)として拾われていただけだった。
然るに、この一件から、一切が負の方向に向かって走り出すのだ。
世間からの誹謗の波が押し寄せてきたばかりか、鉄道自殺による莫大な損害賠償を請求されて、一家離散の状況に追い遣られていく。
【警察官である長谷部有孔の心の余裕の致命的な欠如が、ここで露呈されている】
かくて石川明日香はホームレスとなり、父を死に追い遣った「世の中」(無関心な大衆社会)への怨嗟を有する辰馬に至っては爆発計画の首謀者に化けて、意趣返しを計画するのだ。
立ち直れず、状況に搦め捕られて煩悶を重ねていく美海。
これ以上ない凄惨な状況下にあって、明日香は辰馬に呼ばれ、ホームレスを脱してシェアハウスの住人となり、山脇や梶とも親しくなる(君づけで呼んでいた)。
「致死量を計算して計画しないと失敗するだけだよ。静脈に直接、ぶち込んだ方が確実だ」と辰馬。
「死ねる確率が50%超えるか」と山際。
「間違いない」と梶。
これは、元々、自殺願望を持つ山脇と梶を仲間に引き入れた辰馬が、服毒自殺の致死量について話し合う重大な会話。
そして、辰馬が爆弾を作り、山脇と梶が爆弾を仕掛けていく。
にも拘らず、自販機(山脇)と九段下(梶)の時限爆弾は、彼らが見聞きする前に起こるのである。
二人は服毒死してしまうからである。
二人の死は自死ではなく殺害だった。
当初、自殺を疑った類家は、辰馬によって毒を飲まされたと決めつけた。
その理由は最後まで明かされない。
辰馬の本来的な目的が、尊敬する父を死に追い遣った警察(父を守らず、切り捨てた野方警察署)を中枢とする、SNS・大手メディアに操られるだけの無関心な大衆社会への憤怒であるのに対して、単なる自殺願望を有するに過ぎない山脇・梶との目的意識との懸隔は大きく、埋め難いものだった。
山脇と梶の死を含む辰馬の爆発計画を知った明日香は、「辰馬の本気を確信した」(類家)ことで、我が子である辰馬を刺殺するに至る。
その明日香は、自分の身代わりとして、ホームレス時代に親密になっていたスズキをシェアハウスに呼ぶ。
この時点で、既に爆弾犯の3人は死んでいるので、スズキは爆弾犯と面識がない。
だから、スズキの動機の初発点が明日香だったことが判明する前は、類家は「事件のリーダーは3人の誰か。あんた(スズキ)は兵隊に過ぎない」と推量したが、目論見違いだった。
スズキは、自分が利用されていることを知り、逆に自分が事件を利用することになる。
明日香への強い想いを抱くスズキが、「事件」を乗っ取り、自分を「真犯人」として、一連の爆発事件を、「自分の事件」に変えていくのだ。
その決意は、スズキが明日香からもらった帽子を捨てるカットで証明されるだろう。
かくて、「真犯人」となったスズキは辰馬の遺体にビニールで包み、起爆装置で爆発させていく。
死因を不明にすることで、「真犯人」が別にいることを見せるためである。
スズキが使った爆弾は、全て辰馬が作った20個のうちの一つ。
都市を震撼させる凶悪な「連続爆弾犯」の誕生である。
ここから、スズキの行動を簡単にフォローしていく。
計画的な器物損壊と暴行事件で逮捕されたスズキは、一般市民を巻き込む爆弾テロを予告し、それが実際に爆発が起きたことで、取り調べの担当刑事たちはスズキの供述を無視できなくなった。
以降、担当刑事や警察組織は、霊感による爆発予告の供述をゲーム化し、記憶喪失と真犯人の催眠を装って、自身に罪はないと主張するスズキに翻弄され、連続爆発事件の真相究明のために四苦八苦、右往左往する。
その様子を愉悦しながら、スズキは社会や市民生活を守るべき警察権力の公正性を問い、社会的正義の欺瞞を炙り出して、冷静沈着にスズキと対峙していた清宮を撃沈する。
建前では命は平等であるとしながら、本音では何らかの選別を行い、そうせざるを得ないことを指摘され、それを平然とやってのける怪物のような男を前に憤然として、累加されたストレスを抑え切れなくなってしまったのである。
しかし、社会の不平等性、うんざりするような社会規範の中で爆弾を使用する感情や、時として、逸脱した行動を内包する人間の存在を否定しない類家や等々力には、スズキの悪意ある本音トークは通用しなかった。
但し、類家がどれほど悪意・悪行を想念しても、実際に行動に移すこと、社会規範を破ることまでは決して肯定しない。
「こんな世の中、壊れちまえ」などと平然と吐き出す人が数多いても、それを身体化することがない。
そんな人たちも社会に溶け込み、マイライフを相応に謳歌しているはずだ。
謳歌できず、世の中を恨みつつも、その人なりに社会適応の手立てをリサーチしているに違いない。
それは道徳的な意味ではなく、実際に行動に移した結果が自分にとって「割に合わないから」である。
少なくとも、類家はそう答えた。
スズキは付け入る隙を見い出せなくなる。
そもそも、人間にとって悪意も善意も本音としてあり、状況に応じて適応的な損得を計算するのが普通の大人の思考なのだから、蓋し当たり前のことを、類家は言語化したに過ぎないのだ。
類家が「善・悪」原理の危ういラインを超えて、スズキの価値観に吸収されたわけではないのである。
等々力も、「だけどな、スズキ。俺はそれを不幸せとは思わないよ」と言い放つ。
刺激含みの彼らの物言いを普通に考えれば、作品総体の一つのメッセージとして伝播してくる類家と等々力の言動は、スズキとの対比効果において寧ろ共感を呼ぶところでもある。
しかし、どこまでも純度100%のエンタメ・サスペンスの「爆弾」は、スズキの得体の知れない不気味な人物造形や、連続爆弾テロ予告と担当刑事との駆け引き、事件の背景となった自殺した長谷部刑事の家族との絡みや、スズキとの繋がりの謎解きなど、衝撃やサスペンス仕立ての飽きさせない技巧によって成り立っている作品であった。
それ故、登場人物それぞれの行動の動機や理由は、やや類型化・単純化され、厳格なリアリティとは無縁に展開する。
人間の複雑さを軽視した作りは、最後まで気になった点である。
加えて言えば、辰馬が立てた爆弾テロ計画を乗っ取って再構築するには、相応の時間や能力が必要であるにも拘らず、そのプロセスやスズキの背景について全く触れられることがない展開は、ご都合主義のようにも感じる。
辰馬に直接伝授されたのでもなく、梶や山脇が仕掛けた爆弾や、自らが手掛けた爆発事件まで、警察権力を欺くほど緻密な計画立案・実行能力が、物語を根柢において動かすスズキには端から与えられていたという設定で十分だったのか。
いずれにせよ、純度100%のエンタメ・サスペンス作品に対して、こうした疑問を提示しても意味がないということだろう。
社会を自己基準で動かす男の物語は、それを演じた佐藤二郎のベストパフォーマンスの結晶点だったからだ。
(2026年6月)
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