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2021年10月26日火曜日

「ミッドナイトスワン」('20)  血縁という虚構を打ち抜く障壁突破の物語 内田英治

 



1  「私が怖い?私、気持ち悪い?あなたなんかに、一生分からない…なんで、私だけ…」


 

 

トランスジェンダーの凪沙(なぎさ)は、新宿のショーパブ「スイートピー」で、ショーガールとして働いている。

 

チュチュ(バレエ服)を纏(まと)い、4人組でバレエダンスを踊るのだ。 

凪沙(手前)


そんな凪沙は、育児放棄される少女・一果(いちか)を預かることになった。

 

一果は、凪沙の従姉妹・早織(さおり)の娘である。 

早織


広島から上京してきた中学生の一果が、新宿駅で待っていると、写真とは違う女性が迎えに来た。

 

「似てるわね、お母さんに」 

凪沙(中央左)と一果(座っている)

その一言を放つや、一人でさっさと歩いていく凪沙。

 

無言で付いていく一果。

 

「ちょっと、だらだら歩かないでくれる?あのさ、来るの、来ないの?好きであんた、預かるんじゃないんだから。言っとくけど、私、子供嫌いなの。田舎に余計なこと言ったら、あんた殺すから」 


「田舎に余計なこと言ったら、あんた殺すから」


凪沙は、一果の持つ「健二」の写真を取り上げ、破り捨てた。

 

これが、二人の最初の出会いとなり、以降、アパートの一室での二人の共同生活が開かれていく。 

一方的に生活のルールを命じる凪沙

無言で聞く一果


転校先の学校に一果を凪沙が連れて行くや、周囲から奇異の目で見られた一果は、教室で男子生徒に対して、無言で椅子を投げつけ、帰校した。 


この直後、椅子を投げつける


帰り路でバレエ教室を見かけ、練習風景を覗いていると、バレエ講師・実花(みか)が走り去ろうとする一果にチラシを渡す。 

実花(左)


家に帰ると、学校から呼び出しを受けた凪沙は、問題を起こした一果を説諭し、留守中に掃除をしていなかったことを責める。

 

「やじゃ」 


そう言うや、一果は投げつけられた雑巾を投げ返すのだ。

 

「マジ、ムカつく、あなた。誰んちにいると思ってるのよ!」

「別に、頼んどらんけん」 


反抗する一果を残し、出勤する凪沙。

 

「帰って来た時、綺麗になってなかったら、本当に追い出すから」 

そう言われ、凪沙の出勤後、ゴミを投げつける一果


再び、バレエ教室に足を運ぶ一果。

 

古いシューズを生徒にもらい、早速、体験練習に参加するのである。 



凪沙がアパートに帰ると、部屋の全てが奇麗に片付けられていた。

 

驚く凪沙。 

バレエ教室で体験練習できたことで、一果のストレスが解消されたのだろう


学校で、一果はりんという生徒に声をかけられた。 

りん(左)

バレエ教室で、シューズをプレゼントしてくれた少女である。

 

りんは同じ学校の生徒だったのだ。

 

裕福な家庭のりんの家に行った一果は、りんの服を貰い、彼女が密かに通う写真スタジオに連れていかれた。

 

家の事情でお金がないと知ったりんが、自分の趣味のバイトを紹介したのだった。

 

そこで一果は、マニアに写真を撮らせ、金銭を得る。 

一果とりん(手前)


一方、凪沙は、週に一回ホルモン注射を受けに行っているが、常に体調が思わしくない状態にある。 

ホルモン注射を受ける凪沙


ふらふらになって帰って来た凪沙は、急いで薬を飲みながら、咽(むせ)び泣く。

 

それを見つめる一果。 


「私が怖い?私、気持ち悪い?あなたなんかに、一生分からない…なんで、私だけ…」 

「姉さん」と呼ばれる凪沙は年だから、客に相手にされなかったと思われる


そう言って、さめざめと嗚咽を漏らすのだ。

 

凪沙を見つめる一果の柔和な視線が、凪沙の辛さを包み込むようだった。

 

バレエ教室で、頗(すこぶ)る上達し、実花先生に目をかけられている一果に嫉妬するりんは「個撮」のバイトを勧める。


嫉妬するりん


コンクール参加のために資金が必要な一果は、りんの勧めに応じるが、客の求めを拒絶し、ここでも椅子を投げつけ、大声で叫んでしまう。 

「個撮」のバイトをする一果が、客に無理な要求をされ、椅子を投げつけてしまう


警察沙汰となり、一果とりんはスタジオで警察に聴取され、駆けつけた凪沙は事情が分からず、動転する。 

「何なのよ、何?黙ってないで答えて」


りんは一果を庇うが、バレエ教室で話し合いをするりんの母が、お金に困っている一果が誘ったと決めつけ、帰ってしまうが、この一件を機に、実花は、一果がバレエを続けることを凪沙に進言する。 

「一果ちゃんにバレエを続けさせて下さい」(実花)


バレエ教室に通っていることすら知らなかったな凪沙は、知らされなかった不快感も手伝って、一蹴(いっしゅう)する。

 

不貞腐(ふてくさ)れて出て行った一果を追い駆け、一果を掴み、叱りつける凪沙。 

「二度とこういうことしないで」


この直後、凪沙は、一人にしておけないと考え、一果を「スイートピー」へ連れて行く。

 

同僚たちに可愛がられる一果。

 

凪沙ら4人組のバレエのショーが始まった。

 

そこに泥酔した客が絡んでショーの邪魔をするので、凪沙らと揉み合いになった。

 

空っぽになったステージに一果が上がり、優雅にバレエのダンスを踊って見せるのだ。 


それに見入る客と、凪沙たち。 



初めて見る一果のダンスに魅了された凪沙は、以後、一果のバレエの継続を支えていくことになる。

 

一方、一果とりんの友情は深まるばかりだったが、りんは足の骨を負傷し、バレエを断念せざるを得なくなった。 


涕泣(ていきゅう)しながら、もたれ掛かるりんに、そっと寄り添う一果。 



本気で就職活動を始めていく凪沙。

 

一果の、バレエのコンクール出場のための資金を捻出(ねんしゅつ)するためである。

 

二人の関係が、大きく変容していく。

 

外に出て、バレエの練習をする一果に教えてもらいながら、一緒にオデットを踊る凪沙の表情が輝いている。 



一方、りんが教室に来なくなったことで、バレエに身が入らなくなってしまった一果。

 

そんな折、凪沙は髪を切り、一果のバレエを支えるために男性として就職したことを話す凪沙に、一果は激しく反発する。 


自己を偽ってまで「男」に化け、そこで得た金でコンクール出ることの意味を、少女は感覚的に否定するのだ。

 

荒れる一果を優しく抱き留め、宥(なだ)める凪沙。 

「一果。こっちに来て」(凪沙)

「よしよし。よしよし」(凪沙)


凪沙の熱い思いを受け止め、一果は再び厳しい練習に励んでいく。

 

そんな一果の元に、広島から母親が迎えにやって来たが、振り切ってしまう。 

「一果。迎えに来たんよ」(早織)


そして迎えた、コンサートの当日。

 

りんから頑張るようにと電話を受ける一果。

 

一回目の演目「アレルキナーダ」を、一果は見事に踊り切った。 

「アレルキナーダ」(物語の中で、恋人同士が再会する時の踊り)を踊る一果


この時、りんは親戚の結婚式で、一果が踊る「アレルキナーダ」に合わせて、自分の踊りをシンクロさせていた。 


見事なバレエを披露するりんは、そのまま、ビルの屋上の柵を越えてしまうのだ。

 

「バレリーナ」を夢見る少女たちからバレエを奪ったら、自我が凍り付き、全てを失うのである。

 

「バレエ命」の少女たちの悲哀の風景の一端が、そこにある。

 

そして今、一果の身体もまた、凍り付いていた。 


どうしても踊りたかった「白鳥の湖 第二幕 オデットのバリエーション」の舞台に立ったが、客席にりんの姿が見えたからである。 


演奏が始まっても、立ち竦むだけの一果。

 

そこに、走ってステージに上がって来た母・早織が、一果を抱き締めるのだ。 



客席から、その様子を見ていた凪沙は、会場を後にする。 


凪沙もまた、凍り付いてしまったのである。

 

 

 

2  「私、女になったのはいいけど、それから、こんなになっちゃった…」

 

 

 

タイで、「性別適合手術」を受ける凪沙。 


【性別適合手術は、性ホルモンの摂取・乳房切除手術によっても性転換できないトランス男性(或いは、トランス女性)が、当事者の性同一性に合わせて外科的手法で形態を変更する手術のことで、感染症の有無をチェックする、「性感染症スクリーニング検査」のような術後のケアが求められる。埼玉医科大学などで実施されているが、凪沙のように、施術医療機関が整っているタイで手術を受ける人もいる】 

体と心の性を一致させる「性別適合手術」


広島に戻された一果は、無気力な日々を送っている。

 

友人たちと屯(たむろ)している一果を、早織の連れが車で迎えに来た。

 

行った先は凪沙の実母・和子の家で、凪沙がそこで待っていた。

 

「あんたを迎えに来たんじゃと」と早織。

「一果、帰りましょう」と凪沙。


「おどりゃ、ふざけとるんか!一果は、うちの娘じゃけ」

「あなた、こんなとこにいたら、ダメよ。踊るのよ」

「泥棒のオカマが、何言いとるんじゃ!」

 

襲いかかろうとする早織を止めた和子は、凪沙に抱きつき、泣きながら懇願する。

 

「お願いじゃけん、病院行って、治してや」

「母さん、私、病気じゃないの。だから、治らないの」

 

凪沙は立ち上がり、一果を抱きしめる。


一果も抱き返す。

 

それを見ていた早織は、二人を強引に引き離す。

 

「一果、大丈夫やけん。あんたは、ママが守るけん。うちだって、一生懸命、この子んこと、守っとるんじゃ!一人で子供育てんのが、どんなに大変か、お前には分からんじゃろ!」

「守ってんか、ないでしょ!この、バカ女!一果の腕、こんなにして!あなた、何考えてんのよ、バカ!」

 

取っ組み合いながら、互いに激しく罵倒し合うのだ。

 

そこに早織の男が介入し、凪沙を突き飛ばすと、豊胸手術した胸が肌蹴(はだけ)てしまう。 



それを見て、泣き叫ぶ凪沙の母。 

「この、化けもんが!帰れ!」と早織。 


一部始終を見ていた一果は、早織の後方にいる。 


胸を肌蹴たまま帰る凪沙は、振り返り、一果に語り掛ける。

 

「あたしね。女になったから、お母さんにもなれるのよ。一果のお母さんになれるの」 


そう言い残し、一人帰っていく。

 

一果は、凪沙を追うとするが、早織が引き止める。

 

中学校の卒業式。

 

早織と一果は、記念写真を撮る。

 

「ねえ、お母さん、東京行くけ」

「あいつに会うんか?」

「卒業したら、いいって約束したじゃろ?」


 

東京から実花先生が広島にやって来て、一果の練習を指導している。 

早織は、一果にバレエだけは習わしていたのである


再び、新宿駅に降り立った一果は、その足で、引っ越し先の凪沙のアパートを訪れると、そこは異臭の漂うゴミ溜めのような部屋だった。

 

その部屋で、苦しそうにベッドに横たわり、ボランティアのオムツ交換を待つ凪沙がいた。

 

術後のケアを怠っていたため、凪沙の身体は弱り切り、視力も失っていた。

 

訪ねて来たのが一果だと分かった凪沙の反応は、あまりに身に染みる。 


「恥ずかしい。こんな格好」 


凪沙の体に顔を埋め、咽(むせ)び泣く一果。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」


「私、女になったのはいいけど、それから、こんなになっちゃった…」
 


呼吸を荒くしながら、苦しそうに吐露する凪沙。

 

一果は、凪沙のために食事の支度をして、食べさせて上げるのだ。

 

「ねえ、一果。明日、海行きたいの。私一人じゃいけないから、連れてって欲しいの。どうしても行きたいの」

「うん、分かった」

 

凪沙は、見えない目で熱帯魚の水槽に餌を与えるが、熱帯魚は既に死に絶えていた。 


それを見つめる一果。 



翌日、一果はバスに乗り、息の荒い凪沙の汗を拭き、肩に持たれる。 


海に着いた二人。

 

一果は、杖をつく凪沙を支えながら歩き、流木を背に砂浜に座る。

 

「潮の香りがするわ」

「ねえ、本当に大丈夫?」

「心配しないで…」

 

そこで、奨学金を得て、外国のバレエ学校へ行くことになったと報告する一果。

 

一果を抱きしめる凪沙。 


「おめでとう」

「世界で踊りたいの」

「そうね。あの町は、一果には小さすぎるわね」

「帰ろ。病院へ行こう」

「可愛い…女の子…」

 

海辺を指差し、凪沙はスクール水着を着けた少女を幻視する。 



「ねえ、綺麗よ…白鳥が浮かんでる」

「海に、白鳥がいるわけないじゃん…ねえ、しっかりして。お願い、早く行こうよ」


「ねえ、踊って」

「やだ」

「ねえ、一果、願い…踊って」

 

一果の嗚咽は止まらない。

 

そして、立ち上がり、海辺でオデットを踊るのだ。 

「死に場所」と決めて、海に来た凪沙が、オデットを踊る一果と別離していく最も切ないカット


「綺麗…綺麗…」

 

涙を貯めながら、一果の踊りの方を見つめ、静かに息を引き取る凪沙。 


踊りを止めて、一果が振り返ると、凪沙は永眠していた。 


天に昇ったのだ。

 

それを視認し、海の中に入っていく一果。 



1年後、一果は国際バレエコンクールの舞台に立つ。

 

「見てて」 


そう呟いた一果は、ステージでスポットライトを浴び、優雅に「オデット」を踊るのだ。 


 

 

3  血縁という虚構を打ち抜く障壁突破の物語

 

 

 

「何、考えてんの、あなた。あなたもね、お母さんのこと、色々あると思うけど、もっと自分のこと、大切にしないと」


「関係ないじゃろ!」
 


そう言って、手を振りほどく一果は、いつもの自傷行為を始めるのだ。

 

明らかに、ネグレクトを受けた少女の負の産物である。

 

自らの身体を叩き、腕を噛み、嗚咽する一果を抱きしめる凪沙。

 

「うちらみたいなんは、ずっと独りで生きていかんと、いけんもんじゃ。強うならないと、いかんで」 


最後の台詞は、一果がバレエ教室に通っていることすら知らなかった凪沙が、実花からの勧めを一蹴するエピソードで拾われた言葉である。

 

観ていて胸が熱くなり、感情が込み上げてきて止まないシーンだった。

 

別適合手術をしてまで女性になったトランス男性・凪沙。

 

その思いは、月謝の払いを待ってもらえるように訪ねた教室で、実花から「お母さん」と呼ばれたことに、笑って反応しながら、満更でもない様子の凪沙の表情とトレースする。 

実花から「お母さん」と呼ばれ、笑って反応する凪沙


一果に夕食を振舞い、挨拶をするように、野菜を食べるようにと、さながら、母親のように口煩(うるさ)くするが、それを素直に聞く一果。 


バレエにアイデンティティを保持・継続する、ネグレクトされた少女・一果は、ここまで変わったのだ。

 

「あたしね。女になったから、お母さんにもなれるのよ。一果のお母さんになれるの」

 

一果の「母」となって、未だカムアウトしていない実家(広島)に戻った凪沙が、一果に放った言葉である。

 

「私、女になったのはいいけど、それから、こんなになっちゃった…」 


一果の「母」となった凪沙が、その「母」のもとに帰って来た「娘」に対して、術後のケアを怠ったことで体調を悪化させ、呼吸を荒くしながら吐露する言辞だが、あまりに切な過ぎる。

 

「小学生のときね、学校で海に行ったの…私、何で男子の海パン履いてんだろって…何で、スクール水着じゃないのって…」


「ねえ、行こう。お願いだから、行こうよ」

「私、何で女子じゃないのって…」

「ねえ、行こうってば。病院行った方がいいよ」 



「母」になり、視力を失ったトランス男性・凪沙が、「母」を想い、その健康を案じ、ぴったりと寄り添う「娘」との会話は痛切だった。

 

そして迎えたラストシーン。

 

「母」となった凪沙を失った「娘」にとって、今や、国際バレエコンクールでの舞が心の支えになっている。

 

そこで「母」との短い共存の時間を偲(しの)びながら、華麗に舞うのだ。 



「白鳥の湖」である。

 

「母娘」の愛の物語の喪失にリンクするように、「見てて」と「母」に呼びかけ、悪魔の呪いによって、白鳥に変身させられた王女・オデットの悲恋の舞を踊る「娘・一果」。 


それは、孤独に耐えて生きてきた「母娘」への、作り手からの最高の贈り物だった。


観る者の心に響く映画だった。


これは、血縁という虚構を打ち抜く障壁突破の物語なのである。 



―― ただ、どうしても、これだけは書いておきたい。

 

孤独に耐えて生きるセクシャルマイノリティ(性的少数者)の一つである、トランスジェンダーを主人公にすることで、悲哀に充ちた物語として情緒的に構成されていたが、トランスジェンダー=「可哀想な人」というイメージが強く印象づけられて、違和感を覚えたのは事実である。

 

同時に、一人の優れた俳優に全面依存し、ステレオタイプで、エモーショナルなエピソードを満たす構成力は、映画的構築力の強度を高めていなかったという感懐を抱かざるを得なかった。 

【実際の所、トランスジェンダーがこの役を引き受けられないなら、日本の俳優の中で、この役を演じ切れるのは草彅剛しかいないと思わせるほどの圧巻の演技を絶賛したい。凄い俳優だ】


【ようやく今、トランスジェンダー役を当事者俳優が演じる映画が、この国で生まれた。2021年7月に公開された短編映画である。タイトルは「片袖の魚」。予告動画しか見ていないので、DVDレンタルされたら観るつもりでいる】

映画「片袖の魚」より


それでもなお、私はこの映画を支持したい。

 

喩(たと)え、劇的な「感動譚」に物語を落とし込んだにしても、誰もが避ける社会派の難しいテーマに挑戦し、映画化したこと自体に意味があるばかりか、トランスジェンダーについて調べる人が出てきて、正確な情報を手に入れることになれば、それだけで、LGBT差別に加担する政治家たちの無知を誹議(ひぎ)する世論が高まり、有意義だと考えるからである。 

LGBT法整備、与野党で大きな隔たり 自民「まずは理解増進」、野党「実質的な差別解消を」

LGBT差別議員は「辞職を」 抗議署名9万筆、自民党に提出


―― 以下の稿は、自らの問題意識に依拠する、LGBTについての私的考察である。 


見せしめのために、24歳のゲイがリンチにされた後、遺体をバラバラにに切断されるなど、各地で「LGBT狩り」を積極的に進めていると報道される、アフガニスタンのタリバン政権は論外だが、「同性愛宣伝禁止法」を有するロシアや、アフリカの54カ国のうち、38カ国で同性愛行為が禁じられているなど、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル=両性愛者、トランスジェンダー)に対する差別や圧力を強める国もありながらも、現在、LGBTに対する差別の撤廃と同性婚を認める流れは世界各国で加速している。

リンチの末、見せしめに遺体をバラバラに...タリバン「LGBT狩り」の恐怖/画像は、アフガニスタンのLGBTQへの支持を呼び掛ける(8月、トルコ)
 
「同性愛宣伝禁止法」を有するロシア/画像は、サンクトペテルブルクで開催された同性愛者の権利擁護を訴えるイベントで、反同性愛のデモ隊との衝突によりけがをした活動家(2013年6月)

「トランスジェンダーだと告げると10社連続で落とされた」日本に根強く残る雇用差別


2001年にオランダで世界初の同性結婚法が成立したのを皮切りに、その後、ベルギー、スペイン、カナダ、南アフリカ、ノルウェー、スウェーデン、ポルトガル、アイスランド、アルゼンチンなどで認められている。 

「世界初の同性婚から20年。結婚の平等を喜んだ4組のカップルたち/オランダ」より


近年では、2013年4月にフランスとウルグアイ、8月にニュージーランド、2014年3月に、イングランドとウェールズ(スコットランドは2月に法案通過)で同性婚を認める法律が施行された。 

「フランス初の同性婚カップル誕生、男性2人が愛誓う」より

アメリカでも、ニューヨーク州など、18州で同性婚が認められており、2013年6月26日には、連邦最高裁が男女の結婚に限定した連邦法「結婚防衛法」を違憲とし、同性婚者にも異性婚者と平等の権利を保障するという判決を下した。 

「米連邦最高裁、過半数の判事が結婚防衛法は違憲との判断か」より


その結果、2008年11月に同性婚の執行を停止していたカリフォルニア州で、同性婚者に対する結婚証明書の発行が再開されている。

 

米ニューヨークで、性的マイノリティー(LGBTなど)の権利擁護などを訴える毎年恒例のパレードがある。 

「LGBTなどの権利を訴えて NYで『誇り』パレード」より


彼らは、「ありのままの自分」に誇りを持ち、プライド(誇り)パレードを身体化したのである。

 

「見えない存在になることを拒む」

「トランスジェンダーの息子を愛している」

 

こういうプラカードを、参加者は誇りを持って掲げ、五番街を行進したのである。

 

その初発点は、1969年6月に起こった「ストーンウォールの反乱」。 

ストーンウォールの反乱

警察官がニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」に踏み込み、居合わせた客が抵抗した、世界初の「LGBT反乱」とも呼ぶべき事件である。 

ストーンウォール・イン(ウィキ)


かくて、毎年6月になると、各地で性的マイノリティーのためのイベントが開かれるに至ったということ。

 

因みに日本でも、「東京レインボープライド2021」が、4月24日から5月5日にかけて開催された。 

「東京レインボープライド2021」


―― ここで、声を大にして言いたい。

 

身体の性(生物学的な性)と心の性が一致しない人=トランスジェンダーは「可哀想な人たち」ではない。 

「叶わない夢があるからこそ自分と向き合えた。トランスジェンダーである井上健斗さんが見つけた逆境の乗り越え方」より

"性の在り方"に悩む人に『トランスジェンダー男性』のフォトエッセイを届けたい!」より

「『この髪が私です。』トランスジェンダーの元就活生が登場する新聞広告がTwitterで反響を呼ぶ」(朝日新聞朝刊に掲載された広告)より

「僕はろう、トランスジェンダーそしてアスリート」より

「5人のトランスジェンダーが初当選! 2020年米大統領選で歴史をつくった女性たち」より

「トランスジェンダーは『1つの生き方』|日テレNEWS24」より

「トランスジェンダーの娘に、ふたりの校長先生が言った『衝撃的』な言葉」より


彼らは、一同に差別や偏見と闘い、前向きに生活できる社会の実現を目指し、各地でパレードを開催しているのだ。

「『トランスジェンダーも人間だ』-東京入管被収容者パトさんからの訴え」より


「トランスジェンダーを公表したシンガーが語る『紅白で私の心は死んだ』理由」より

「トランスジェンダー告白の中山咲月『言ってよかった』 仮面ライダーでも話題の23歳」より

「父親の彼女から『別籍届けにサインしろ』『私は許さんけんな』と言われ…トランスジェンダー・ゆうさん(30)が経験した壮絶すぎる“カミングアウト”」より

「『性』どう向き合う?女子大に戸惑い お茶の水大『心は女性』受け入れ発表 トイレや寮生活…課題も」より

「隠れた医療難民トランスジェンダーと医療コミュニケーションのいま、そしてこれから。 ー 患者と医師、それぞれの立場から考えるコミュニケーションの未来 ー」より

「トランスジェンダーへの偏見と闘う、若きモデルの夢と苦悩」より


因みに、当事者たちの自称として、1990 年代から広がっていった「トランスジェンダー」という概念の確立は、「性別適合手術を行わない者」のアイデンティティ確立という目的を有し、「性同一性障害」の脱医療化に向けた動きの発現であった。

 

その結果、「手術を行うことを望む者/手術を行った者」に対しては、旧来の「トランスセクシュアル」(外科的手術を望む人)という概念が用いられるようになり、「トランスジェンダー」とは区別されるようになったという経緯を理解せねばならない。 

トランスセクシュアル


私たちは、この経緯を誤解してはならないだろう。

 

【LGBは、どこまでも性愛の対象が同性、または両性という「性的指向」の問題(異性を対象にするのはヘテロセクシュアル)であって、Tは身体の性と心の性が一致しない問題であるが、正確に言えば、映画の場合、「性別適合手術を行わない者」=トランスジェンダーというより、トランスセクシュアルと言うべきである】 


【参照・引用資料】

 

リンチの末、見せしめに遺体をバラバラに...タリバン『LGBT狩り』の恐怖」(ニューズウィーク日本版) 「『日本では同性愛を話題にすらしない』LGBTの祭典『東京レインボープライド』参加者が訴え」(ハフポスト) 「LGBTなどの権利を訴えて NYで『誇り』パレード」(朝日新聞デジタル) 「性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―

  

【「女性にも色々な体がある。男性にも色々な体がある」について言及した、拙稿・心の風景「人はどのように男になり、女になっていくのか」を参考にしてくれれば、とても有難いです】


(2021年10月)



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