検索

2024年2月8日木曜日

神様のくれた赤ん坊('79)   二つの旅が溶融し、二人の旅が完結する  前田陽一

 


1  「もしかしたら、あたしたちの考えてることって、同じなんじゃないかしら」

 

 

駆け出し女優の森崎小夜子(以下、小夜子)は、同棲中の漫画家志望でエキストラの仕事をしている三浦晋作(以下、晋作)に妊娠を告げるが、晋作は出産に反対する。 

小夜子と晋作

晋作が自宅アパートで漫画を描いていると、初めて台詞の付いた役を貰った小夜子が帰って来て、台詞の言い回しを晋作に聞かせる。

 

「もしかしたら、あたしたちの考えてることって、同(おんな)じなんじゃないかしら」 


この台詞を聞かされて出産を諦めさせようとする晋作の元に、突然、かつて晋作が通っていたバーのホステス・あけみの息子・新一を連れ、あけみのマンションの隣人の女が訪ねて来た。

 

「よかったね、坊や。お父ちゃんに会えて」と言って上がり込み、矢庭に新一を引き取って欲しいと言われ、度肝を抜かれる晋作。

 

あけみは新一を残して男と外国へ駆け落ちし、彼女が残した手紙には、父親の元に連れて行き、引き取ってもらうか養育費を受け取るようにと、父親の可能性がある5人の男の名前と住所が書かれていた。 

新一

そのうちの一人である晋作に新一を託し、言い捨てた女はそのまま帰って行く。

 

新一の血液型がB型で、AB型の晋作は父親の可能性があり、小夜子は事情がはっきりするまで一緒にいられないと言って、家を出て行った。 



困った晋作は途方に暮れるが、新一の父親探しのために追い立てられることになり、先ずは尾道を訪ねることにした。

 

一方、小夜子は妊娠が早とちりと判明し、ずっと気になっていた自分のルーツを探すため、3年前に亡くなった母と一緒に子供の頃住んでいた尾道へ行くことを決め、晋作らに同行する。

 

尾道(広島県)に着くと、新一を連れた晋作は、父親候補の市長選の選挙活動中の代議士・田島啓一郎の事務所を訪ね、小夜子は母が勤めていた美容院へ行く。 


小夜子は、そこで尾道に来る前の幼い頃の記憶にある、古い家並み(やなみ)から白いお城が見える場所を求めて探し回る。

 

母を知る美容師の女性に聞くが、母からは何も聞いていなかった。

 

晋作は旅館で田島と会い、あけみ宛の手紙を持ち出して証拠を示したが、田島は10年前にパイプカットしていると医者の証明書を出して反証し、逆に脅迫の現行犯として警察に逮捕されてしまう。 

医者の証明書を見せる田島


すぐに嫌疑は晴れ、小夜子が身元引受人となって釈放された晋作は、田島の秘書から実は自分が田島の名を語って明美と付き合い、妊娠が判明して手紙を書いたと告白される。 

秘書

但し、秘書の血液型はA型で父親ではないと言い(実際はAOであれば可能性あり)、口止め料として金を差し出した。

 

【血液型にはAA、AO、BB、BO、AB、OOの6種類があり、 このうち、AA、AOが「A型」、BB、BOが「B型」、ABが「AB型」、OOが「O型」になる】 

血液型は基本的に6種類

固辞する晋作に対し、小夜子は養育費として受け取り、晋作はそれに味を占めることになる。 


小夜子は妊娠していなかった事実も旅の目的も話さないまま、晋作らの旅に付き合うことを告げ、晋作を喜ばす。

 

九州に入り、小倉(福岡県北九州市)に到着し、ホームから見える城をじっと見つめる小夜子だが、街に出て橋の上から眺めて目的の場所と違うことが分かった。 


晋作が父親候補の福田邦彦の実家を訪ね、今日が結婚式で別府(大分県)にいると聞き、急遽、3人は別府に向かう。

 

結婚式の合間に、トイレで福田にあけみとの子供の話をすると、福田は学生時代に付き合っていたが、遊びに過ぎず、誰とでも寝るというあけみの子の父親である証拠を聞かれた晋作は、「そんなもんはありません」と開き直る。 

福田

福田が養育費として5万円だけ差し出してきたが、それに不満な小夜子は、結婚式の会場に入り込み、新一の手を引いて友人として東京でのエピソードをスピーチし始めると、慌てた福田から100万円出すとのメモを渡され、話を逸らして終わらせた。 


駆け出し女優の本領発揮のシーンだった。

 

結婚式の全てのご祝儀袋を受け取った晋作は、レンタカーで今度は熊本へ向かった。

 

熊本城を見た小夜子は、これも違っており、長崎へ向かう前に、母の生まれた天草に寄ってくれと晋作に頼む。 



天草(熊本県)。



小夜子は廃屋となった母の生家を訪れ、近くに住む老人から、母が若い頃、長崎の丸山にある大野楼に出て行ったことを聞き出した。 



旅館の中居に、丸山の大野楼という旅館を訊ねると、そこは遊郭があったことで有名だと聞き、ショックを受けた小夜子は、中居を相手に酒を飲み、歌って酔い潰れる。 


その時、中居が『島原の子守唄』を歌い、その歌を母がよく歌ってくれたことを思い出した小夜子は、新一を寝かしつけようと、酔っぱらったまま子守唄を歌うのだ。 


小夜子は歌の途中で窓際へ行って嘔吐し、それを見た新一が布団から起きて、小夜子の背中をさすり、水を持ってくる。 


「あんた、酔っぱらいの扱い慣れているのね…あんたのお母さんもそうだったか」

 

その晩、小夜子は布団の中で母との思いを巡らし、涙するのだった。 

母を回想する



長崎に着き、晋作と新一は父親探しに、小夜子は丸山の大野楼を探しに行く。

 

お好み屋の店主に大野楼がどこかを訊ねると、今は菓子屋になっている古い建物を指し示めされた。

 

母の名を言っても、源氏名(げんじな)しか分からぬと古い写真を見せられ、その中の一枚に写る母を見つけた。 



菊千代と名乗っていた母が唐津へ行き、小夜子がそこで産まれた子である事実を教えられるに至る。

 

【長崎の丸山は、江戸の吉原、京の島原と共に、日本三大遊郭として知られている】 

日本三大遊廓「丸山遊郭」


自暴自棄になった小夜子は夜の女に変身し、雨の降る街頭で立って声をかけられるのを待ち、若い男からの誘いを受けた。 



一方、新一の次の父親候補でバーテンダーの桑野弘を探し当て、元プロ野球選手だった桑野が勤めるライオンズファンが集うバーを訪ねた。

 

当然、桑野は父親であることを否定し、晋作は養育費を要求しても応じないので、ライオンズファンに悪態をつくと、客を怒らせ取り囲まれ、結局、何も得ないで新一と共に逃げ帰って行く。 

桑野(右)

小夜子もまた、若い男とホテルに入るが、こちらもいざとなると怖くなって逃げ出す始末。

 

戻って来た晋作に泣きながら縋る小夜子はこれまでの事情を話し、晋作に赤ん坊を産んでいいと言われたが、小夜子はそれが勘違いだったことを打ち明けて謝罪する。 



次に3人が向かったのは唐津(佐賀県) 


「どうやら、お城巡りもゴールに辿り着いたみたいだな」

「やっぱり、このお城みたい。お母さん、長崎から唐津に移って、私、ここで生まれて、3つか4つまで育ったんだ。お父さん交通事故で死んだなんて聞かされてたけど…」

「この街で誰か好きになって、それで、お前産んだんだよ」 



古い街並みを見て、子供の頃の遊んだ記憶が蘇る小夜子。 



路地裏から通りへ出ると、そこから家並みの向こうに見える白い城が目に留まった。 


それは、小夜子の脳裏に刻まれ、ずっと探していた城のある街の景色だった。

 

小夜子が道路に座ると、新一と晋作も横に座り、一緒にその城を眺めるのだ。 



そして、最後の父親候補を探すため、列車で移動する3人だったが、新一が見当たらなくなって車内を探すと、一人で座って窓の外を見続けていた。

 

「あの子、大きくなってから、この旅行のこと思い出したらさ、その時、どんな風に思い出すんだろうね」と小夜子。 



目的地の若松(福岡県北九州市)に着き、海運会社の高田組を訪ねるが、父親候補の高田ごろうは既に亡くなり、その父親が応対して、三代目を継いだ妻・まさに引き合わせる。 

高田の父親

まさ(右)


まさは仏壇に向かって、放蕩三昧だった忘夫に不満をぶつけた後、新一を引き取るときっぱりと言い切り、驚く二人。

 

「…無理に引き取ってもらっても、色々…あの子のこと考えて…」と小夜子。

「あの子、ここの子って決まったわけじゃない…」と晋作。

 

「うちの子でなくてもいいんです!」と言い切るまさ。 


他にも、そういう疑いのある子を3人引き取っていると言うのだ。

 

あまりに呆気なく事が進んだ二人は戸惑うが、他の子供たちと楽しそうに遊んでいる新一を見て、幸せになれそうだと納得して家路に就くことになった。 



「なんか、忘れ物してきたみたいだ」と呟く晋作。

 

「もしかしたら、私たちの考えてることって、同じなんじゃないかしら」 


小夜子は役が付いて初めてもらった時の台詞である。

 

カットされてしまった台詞が、ここで回収されるのだ。

 

再び小夜子が同じ言葉を発して晋作に訴えると、二人は踵(きびす)を返し、今歩いてきた道を戻って行くのだった。

 

 

 

2  二つの旅が溶融し、二人の旅が完結する

 

 

 

小夜子の「心のルーツ」を辿る旅と、父親探しという「血縁のルーツ」を探し求める晋作の旅が都合よくリンクしたロードムービー。

 

厄介なのは、後者の旅。

 

「自らが父親ではない」ことを確認・検証するための急迫した移動の旅なので、状況突破しない限り、小夜子との関係を復元できないのだ。

 

これが、この非日常のトリップのコアにある。

 

にも拘らず、晋作の旅のいい加減さが、いつしか強請(ゆす)りのトリップと化していく。

 

このトリップに小夜子も悪乗りして踏み込んでくるから、コメディラインを外すことがない。 


そんな経緯を経て、辿り着く小夜子の「心のルーツ」の風景。

 

「城を望む古い町並み」 


この物理記号にリアリティを与えることで、彼女のナラティブは自己完結していく。

 

「城を望む古い町並み」に見入る小夜子。

 

「しーんとした気持ち…森崎小夜子、24歳。お母さん、頑張ってるからね」 


「心のルーツ」を探し求める行程で被弾した小夜子の、慚愧(ざんき)に堪えない心の傷が癒されていく瞬間だった。 


「ずっと探してたのは、この景色だったのか…」

 

晋作も言葉を寄せる。

 

中絶を求めた男がそれを撤回し、真実に触れ、既に復元していた関係がそれ以外にない落としどころに着地したのである。

 

二人の関係の中枢に、ジャイアンツ帽子を被り直した新一がいる。

 

この決定的な構図に辿り着くまでの映画だったのである。

 

この構図がラストで手際よく回収されるが、物語の着地点はそこにしかなかった。

 

二つの旅が溶融し、二人の旅が完結する。

 

相変わらず子供の心理描写が希薄で、「トルコ風呂」(トルコ人留学生の抗議運動を機に「ソープランド」に改称)という言葉が誤用であった事実に無頓着だった昭和映画のヒューマン・コメディだった。

 

(2024年2月)      

 

0 件のコメント:

コメントを投稿