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2023年3月22日水曜日

トップガン マーヴェリック('22)  「全員生還」という思いが雪の渓谷を切り裂いていく  ジョセフ・コシンスキー

 



1  「目標までの時間、2分半。敵滑走路には“第5世代機”が待機。一騎打ちになれば、F-18の君らは死ぬ…だから最大の敵は“時間”だ」

  

 


「このプログラムはキャンセルだ。マッハ10の目標を達成できなかった」

「期限は2か月先だ。今日のテストはマッハ9まで」

「それも“目標以下”だと」

「誰が?」

「ケイン少将です」

 

ピート・“マーヴェリック”ミッチェル海軍大佐(以下、マーヴェリック)は、輝かしい戦歴で最高の腕を持つ伝説のパイロット。

 

そんな彼は、スクラムジェットエンジン搭載の極超音速テスト機「ダークスター」のテストパイロットを務めていた。

 

しかし、最高速度がマッハ10(マッハ1は秒速340ⅿ)に達していないのを理由に、計画が凍結されることを伝えられる。

 

ケイン海軍少将のこの計画凍結に反発したマーヴェリックは、自らマッハ10を達成すべく「ダークースター」に乗り込んだ。

 


そこにケイン少将がやって来て様子を伺うが、マッハ10を達成しても満足せず、更に記録を伸ばそうとするマーヴェリックは加速を続け、マッハ10.4まで到達した直後、機体が空中分解してしまう。

 

無事生還したマーヴェリックは、ケイン少将に質される。

 

「海軍勤務30余年、叙勲多々、表彰も多々、戦功賞…40年間で敵機3機を撃墜したのは君だけだ。なのに昇進も引退も拒み、どんな危険を冒しても死なない。今も大佐だ。なぜだ?」

ケイン少将

「僕のいるべき所です」
 

マーヴェリックとケイン海軍少将(右)


結局、命令違反で「飛行禁止命令」が言い渡されるはずのマーヴェリックだったが、太平洋艦隊基地からの要請で、急遽ノースカロライナへ「トップガン」として赴任する命令が下された。

 

「結果は見えてる。君らパイロットは絶滅する」

 

サンディエゴ ファイタータウン “米海軍 太平洋艦隊基地”

 

【ノースアイランド海軍航空基地のこと。「ファイタータウン」は海軍の基地が数多くある基地の街で、サンディエゴ(カリフォルニア州)の別称】 

ノースアイランド海軍航空基地



 “サイクロン”(コールサイン=アメリカ海軍での渾名)ことシンプソン司令官と面会するマーヴェリックは、ベイツ少将(“ウォールロック”)を紹介されるが、既に顔見知りだった。

 

早速、サイクロンから攻撃目標の「NATO条約に違反して、建設中のウラン濃縮プラント」について説明を受ける。

 

「国防総省(ペンタゴン)の下命で、稼働段階に達する前に、プラントを破壊する。位置はこの険しい谷の戦端の地下。敵は万全のGPS妨害に加え、地対空ミサイルと少数の第5世代戦闘機、あと詰めの予備戦闘機も配置されてる」 

サイクロンとウォーロック(右)



【現在、第5世代ジェット戦闘機の代表は、スーパークルーズ機能(超音速・長距離飛行・ステレス=巡航)を持つ世界最強の戦闘機F-22 ラプター(米国)】 

F-22 ラプター(ウィキ)


意見を求められたマーヴェリックが的確な解説をする。

 

「F-35ステルスなら朝飯前の任務ですが、GPS妨害が障害です。地対空ミサイルには、低高度レーザー攻撃が可能なF-18が最適です。誘導爆弾、2発搭載、4機がペアで侵入。谷から離脱する際、ミサイルの集中砲火を浴びます。生き延びても帰途は空中戦の連続…誰か帰らぬ者がでます」 



【F-18は、アメリカ海軍の高性能の艦上戦闘攻撃機「F/A-18E/F スーパーホーネット」のことで、単座型と複座型がある。イラク戦争にも使用された】 

/A-18E/ スーパーホーネット(ウィキ)



マーヴェリックは、自らトップガンとして参加するつもりだったが、教官職としての任務をサイクロンより伝えられた。

 

「12名のトップガン卒業生を招集した。君がその中の6名を選び、出動させる」 


画像の中の一人、ブラッドショー“ルースター”の父親は、かつてのマーヴェリックのパートナーの“グース”であり、事故で亡くしていた。 


教官の任務を固辞しようとするマーヴェリックに、かつて共に戦った、現太平洋艦隊司令官のトム・“アイスマン”・カザンスキー海軍大将からの要請であること、且つ、「これが君の最後の任務だ」と知らされる。

 

「教官か、これきり飛ぶのをやめるか」

 

昔馴染みのバーに行くと、3年前にこの店を買ったと言うペニーと再会する。 

ペニー

海軍の溜まり場で、今回の任務の候補生たちもやって来ていた。

 

そこにルースターが現れ、自信家のハングマンに挑発され、マーヴェリックはその姿を追い続ける。

 

会計が足りず店を追い出されると、店内でルースターがピアノを弾き盛り上がっている様子を外から凝視するマーヴェリック。 

ルースター



マーヴェリックは親友であったルースターの父グースが同じ曲をピアノで弾き、皆で歌ったことが思い出され、そのグースを喪った事故のトラウマがフラッシュバックするのだ。

 

いよいよ特殊戦訓練が始まった。

 

司令官であるウォールロックがトップガンたちを前に挨拶をし、教官として呼ばれたマーヴェリックが紹介される。

 

「君らの実力を見たい」

 

早速、実践訓練が始まった。

 

マーヴェリックの操縦について行けないトップガンたち。

 

尖っていたルースターや、「おじさん」呼ばわりしていた者たちは、あっさり降参するしかなかった。 

ルースター

敵に撃たれたら罰ゲームとして腕立て伏せ200回が決められ、ルースターは腕立て伏せをする羽目に。 


それを嘲笑していたハングマンらも、結局、腕立て伏せをする羽目になる。

 

父の死に拘るルースターは、マーヴェリックから「お互い、過去は忘れよう」と声をかけられるが、勝負をつけようと下限高度5000フィートを無視して無理な操縦を仕掛けるのだ。

 

ここでもマーヴェリックに撃たれ、再び腕立て伏せをすることになる。

 

フェニックスがルースターに声をかける。

 

「私はこのミッションを飛ぶの」

フェニックス

「うるさい」

「ハングマンと組ませる気?なぜやったの?」

「願書を破棄した…海軍兵学校への俺の願書を。それで4年遅れた」


「でも、なぜ?」

 

下限高度のルールを破った件で、マーヴェリックはサイクロンに叱責される。

 

「彼らは高々度から爆弾を投下するだけ。空中戦はお粗末。今回のミッションには力不足です」とマーヴェリック。

「ミッションを成功させる訓練期間は3週間だ」

「そして生還。必ず生還させます」 


マーヴェリックは低高度爆撃の訓練が必要だと、“下限高度変更願い”を提出する。

 

ハングマンとコヨーテは過去のデータ画像から、マーヴェリックとルースターとの関係を理解し、その情報が皆に伝わることになる。 

ハングマン(右)とコヨーテ



今回のミッションの作戦では、敵のレーダーに探知される前に侵入し、目標を爆撃したら直ちに離脱する時間との戦いであることを強調するマーヴェリック。

 

「目標までの時間、2分半。敵滑走路には“第5世代機”が待機。一騎打ちになれば、F-18の君らは死ぬ…だから最大の敵は“時間”だ」 



ナビでシミュレーション訓練をする。

 

「谷を早く抜ければ、SAM(地対空誘導ミサイル)のレーダーに捕捉されない。ハードに旋回すると、体へのG負荷(重力加速度による負荷のこと)が倍増する。肺が押され、脳に血が行かず、判断力と反応速度が落ちる」 


コヨーテとフェニックスのコンビは高度オーバーで撃墜されるという結果に対し、原因を問うマーヴェリック。

 

「減速を伝えなかった」とコヨーテ。


「なぜ、それを怠った。それで遺族が納得するか?地形は頭に入ってたはずだ」

 

次にハングマンはスピードを出し過ぎて死に、逆にルースターは目標に達したが1分遅れだった。

 

「編隊長だろ?なぜ仲間を死なせた?…引き返す途中で敵が迎撃してきたら?」


「空中戦を…勝敗はパイロットの腕です!」とルースター。

「その通り」

 

ハングマンが口を挟んでくる。

 

「マーヴェリックのように飛ばなきゃ、生還できない…お前は頭が固すぎるんだ…過去は忘れろ」 



ここで、ハングマンはルースターの父親がマーヴェリックと飛んでいたことを話し始め、ルースターが殴りかかるのを皆が制止する。

 

「失格だ」とハングマンが言い放つと、マーヴェリックは「解散」を命じる。

 

その時、アイスマンから“会いたい”とメールを受け取り、病床の彼の自宅を訪ねた。

 

「ルースターは今も僕を恨んでる。いつか状況を知り、僕を許すかと」 

アイスマン

「“まだ時間はある”」とキータッチで答えるアイスマン。 

「彼にはムリだ」

「“訓練してやれ”」

「話に耳を貸さない。また誰かを死に追いやることなど。彼を行かせるより、僕が行く」

「“過去は水に流せ”」

「どう教えれば?僕は教官じゃない。戦闘機乗りだ。海軍のパイロットだ。それは職業じゃない。僕そのものだ。そのことは、人に教えられないし、ルースターも海軍も望んでない。だから教官失格だった…彼に任務を与えたら、戻らないかも…」 


涙ながらに語るマーヴェリック。

 

立ち上がったアイスマンは言葉を絞り出す。

 

「海軍には、マーヴェリックが必要だ。あの若者にも、マーヴェリックが必要だ。だから君を推したのだ。だから君はここにいる」


「ありがとう、アイス。全てのことに」

 

ペニーが見守る中、マーヴェリックは海岸でトップガンたちとアメフトを楽しむ。

 

マーヴェリックはペニーを自宅へ送ると、中に入れてもらい、寄りを戻す。

 

目標のウラン濃縮プラントの稼働が早まり、ミッションを一週間繰り上げることになった。

 

「困難な訓練第2段階を、一週間でこなす。ポップアップ攻撃の成功には2つの奇跡が必要だ。2対のF-18が密集隊形で突入。チームワークがミッションの成功と諸君の生死を決める…最終アプローチは背面飛行で急降下…目標を破壊できる制度範囲は幅3メートル。複座機が目標をレーザー照射。第一編隊が照射された排気口めがけて爆弾を投下。地下工場が露出する。それが奇跡1。第二編隊が致命弾を放ち、目標を破壊する。それが奇跡2。どっちかがミスったら、作戦は失敗」



【ポップアップ攻撃とは急浮上してからミサイル攻撃すること】

 

更にマーヴェリックは、離脱する際の高重力急上昇について話し始める。

 

「F-18の制限荷重は7.5Gだ」とルースター。

「今回はそれを超える。機体に歪みが出るかも。体にかかる負荷は900キロ。頭が脊椎を圧迫。像が胸に座ってる感じ。失神しないように、ただもがく。ここが今回の正念場。崖との衝突を免れても、先には敵のレーダーが待ちかまえてて、SAMを浴びせかけてくる。高G後、死と対決する。君らと期待への更なる挑戦だ」 



激しい訓練で、コヨーテは重力に耐え切れず意識を失い、一方、フェニックスとボブの機体はバードストライクでエンジン火災を起こすなどして、危うく命を落としそうになるが、あわやというところで死なずに済んだ。

ボブ


直後、仲間を心配するルースターは、マーヴェリックに恨みを訴えるのだ。

 

「なぜ僕の願書を破棄し、ジャマをしたんだ?」

「未熟だったから…君は教範に縛られ過ぎだ。考えるな。行動しろ。考えてると死ぬ。信じろ」

「あんたを信じて、親父は死んだ」

 

そこにアイスマンの死を告げる知らせが届く。

 

直後、マーヴェリックはサイクロンから教官の解任を命じられる。

 

追い詰められたマーヴェリックは除隊を決めるが、ペニーは諦めるなと励ます。

 

「育てたパイロットに何かあったら、あなたは絶対に自分を許さない」 


その性格を知り尽くした者の言葉である。

 

マーヴェリックに代わってサイクロンが教官となった。

 

「今日から戦術を変更する。目標までの時間は4分。山は越えず、減速して谷へ…」

「敵の迎撃を受けるのでは?」とボブ。

「諸君は受けて立てるはず。崖との衝突を避けるため、飛行高度を山の北壁の高さまで上げる。レーザー照射は困難だが、ハイG上昇は回避」 


「敵ミサイルの餌食だ」と、ファンボーイが不満を漏らす。

 

そこに突然、マーヴェリックがシミュレーションに侵入し、自ら操縦で模範飛行を2分半以内に示してみせるのだ。 


緊迫して見守るトップガンたち。

 

それを視認したサイクロンに、再び招聘されることになったマーヴェリック。

 

「ミッションが可能であることは証明された。たぶん唯一の方法だ…部下を犠牲にミッションを全うする?または、キャリアを懸け、君を編隊長に?」

 

マーヴェリックは海軍の制服を着て、ペニーの店に現れ、別れを告げに来た。 


今度ばかりは、生還不能な危険な任務であることを認知する男の別離でもあった。 



編隊長となったマーヴェリックが、最終的に選ばれた編隊の名を発表する。

 

「ペイバックとファンボーイ、フェニックスとボブ」

ペイバック(右)とファンボーイ

フェニックスとボブ(右)



「君の僚機は?」

「ルースター」 



他は予備機要員として空母で待機することになった。

 

空母に乗り込み、目的地へ出発する。

 

ルースターはマーヴェリックに何かを言おうとしたが、帰還してから聞こうということになった。

 

そして、後ろからルースターに声をかけるマーヴェリック。

 

「君はやれる」

 

隊員が機体に乗り込み準備が完了し、いよいよミッションがスタートするのだ。

 

 

 

2  「君は命の恩人だ」「父の代わりです」

 

 

 

まずトップガンのF-18の編隊4機が次々に出発し、上陸まで60秒となったところで、トマホーク(巡航ミサイル)が発射され、頭上を越えたとことで編隊は攻撃体型を取る。

トマホーク


そこから2分半のミッションへのカウントダウンがスタートする。

 

敵のレーダーに見つからないよう、深い雪の渓谷で低空飛行を続け、トマホークが敵の滑走路を破壊すると、敵機が攻撃に気づき方向転換して迫って来た。

 

敵機が迫る中、遅れ気味のルースターは「親父助けて」と呟く。


 

「頑張れ、考えるな。行動しろ」とマーヴェリックが鼓舞すると、ルースターはスイッチが入り、一気に加速して合流する。 



急峻な山を越え、ボブが攻撃目標をレーザー照射し、マーヴェリックが爆弾投下を命中させ、核兵器プラントの扉を開ける。 

核兵器プラントの扉を開ける



「奇跡1」と空母の司令室から見守るウォールロックが呟く。

 

次に、レーザー照射でトラブル発生するが、ルースターが爆弾を投下して地下の核兵器プラントの破壊に成功する。 


「命中!命中!命中!」


「奇跡2」とウォールロック。
 



しかし、離脱中にSAMのミサイルの攻撃を受け、ルースターを庇うために後方につけたマーヴェリックの機体が被弾して墜落する。 



「帰投させろ」とサイクロンの指令が伝えられた。

 

ルースターはマーヴェリックを救出に向かいたいが、サイクロンは聞き入れない。

 

「F-18だぞ。望みはない」 


同時にハングマンが司令室に交信する。

 

「ダガー・スペアより、発艦許可を」 


しかし、サイクロンは許可せず却下される。

 

「救助隊を」

「狙われる」

「マーヴェリックが…」

「犠牲は一人でいい」

 

ルースターは救助に拘るが、ボブも言い放つ。

 

「諦めろ。彼は死んだ」 



マーヴェリックは雪の平原で意識を取り戻すと、敵機からの攻撃を受けて逃げるが、回り込んで攻撃を受ける寸前に撃墜された敵機。

 

ルースターが救助に来たのである。

 

しかし、そのルースターもミサイルに攻撃され被弾。

 

それを目撃したマーヴェリックは、森の中に落下したルースターの元へ走って行き、彼を突き飛ばす。

 

「助けてやったのに、帰投しないのか!」


「そっちこそ!」

「お前を助けようとして撃たれたんだぞ。何を考えてる!」

「“考えるな”と言ったろ!」


 

マーヴェリックは攻撃を受けた敵基地の被害を免れたF-14に目をつけた。

 

「あれでミグを3機撃墜」

「あのポンコツが飛ぶか?」

 

二人はF-14の奪取に成功し、ルースターは司令室へ信号を送る。 

F-14を奪取する



それが何を意味するか飲み込めなかったが、ルースターがF-14から発信されたと知る。

 

「そんな…あり得ない」

「マーヴェリックだ!」


 

2機の敵機が接近してきたので、マスクをして味方だと思わせる。

 

「手を振って笑え」

 

相手も手を振っていたが、しかし、敵機は攻撃態勢に変った。 


「空中戦だ」

「F-14対第5世代戦闘機か」


「勝敗はパイロットの腕だ。一人なら、戦う?」

「今は、お前が…」

「それ、違うだろ。考えるな。行動しろ」

 

スイッチが入ったマーヴェリックは2機を相手に激しいドッグファイト(空中戦)が展開し、何とか敵機を撃墜したが、装弾は使い果たしてしまった。 



空母への帰投で海上を飛行していると、真正面から敵機が表れ、一方的な攻撃に晒されることになる。

 

万事休すで脱出の機会も失ったのだ。

 

「許せ。グース」 



死を覚悟し、敵機のミサイルのボタンが押された瞬間、敵機は爆破する。 


そこに現れたのはハングマンだった。 


無事空母に着陸した二人は、甲板上で仲間からの大喝采を浴びる。 



マーヴェリックとルースターは固く抱き合う。

 

「君は命の恩人だ」


「父の代わりです」
 



ペニーの店に行くと、娘とクルージングに行き、いつ帰るか分からないと言う。

 

マーヴェリックはルースターとP-51の整備をしているところに、娘とペニーがやって来た。 


マーヴェリックはペニーをP-51に乗せ、大空を飛行する。 


ルースターはマーヴェリックと一緒に写る亡き父の写真を叩き、思いを馳せるのである。 


 

 

3  「全員生還」という思いが雪の渓谷を切り裂いていく

 

 

 

物語の本線は、二人の男のトラウマの克服と、そこに起因する関係の縺(もつ)れを解(ほぐ)す行程を、苛酷なドッグファイト(空中戦)を通して描いた成長譚。

 

ところが、マーヴェリックのトラウマを理解するには、37年前に製作された「トップガン」を観なければ分からないので、検索してみると、以下のような事情。

 

即ち、「グース(ルースターの父)の死因となったのは、マーヴェリック・グース機がジェット後流(ジェットエンジンの排気口から発生する流れ)に巻き込まれて墜落する中で、グースは脱出しようとした時に頭を強打したことが原因」ということ。

 

この説明通りなら、マーヴェリックのトラウマの正体が、自分だけ生き残ったことへの罪悪感「サバイバーズ・ギルト」であることが判然とする。 


だから、出世街道への道を自ら閉ざしたのだろう。

 

そんなマーヴェリックに対するルースターの怨嗟(えんさ)は、「なぜ僕の願書を破棄し、ジャマをしたんだ?あんたを信じて、親父は死んだ」という怨み節のうちに表現されていたが、実情は、ペニーとの会話の中で明らかにされていた。

 

「入隊を遅らせた。グースを失った母親が、死に際に“息子をパイロットにしないで”と」


「彼は知ってるの?」

「彼が僕を恨むのはいいが、母親を恨んだら?」

「難しい決断ね」

「僕が父親代わりになろうと。だが、失敗したようだ。それに彼は、実際力不足だった」 


そのルースターがトップガンになったのだ。

 

ルースターの本来の動機は、ミッションに参加することで輝かしい戦績を残して、燻(くすぶ)っていたスタートの遅れの劣等意識(特に、自己基準の男・ハングマンとの確執)と、父の死のトラウマを克服する必要があったこと。 


ただ後者の場合、父の死因を理解できているにも拘らず、事故死した父の力量不足を認めたくないばかりに、その責任をマーヴェリックに転嫁したとも考えられる。

 

であれば、この心理にはインフェリオリティーコンプレックス(劣等感)が加わることになる。

 

人間の問題は、かくも厄介なのである。

 

いずれにしても、それぞれの思いを抱えて歩んできた2人が物理的に最近接することになる。

 

しかもマーヴェリックは、ルースターを教える立場に置かれたのである。

 

ところが、ミッションに臨むルースターの技術力を目の当たりにしたマーヴェリックは、重い課題に直面することになる。

 

彼の戦死だけは何としても回避せねばならなくなったのだ。

 

この究極の事態に直面したマーヴェリックが、それでなくても、苛酷なミッションの責任の重さを背負って、迷いながら引き受けた任務の完遂を至上命題にするのは、「全員生還」という人道的観念を理念を抱懐しているからである。 



2人のトラウマを克服するために、それ以外にないミッションの成功という絶対要件が求められが故に、その成功が同時に2人の人生を昇華させていくというストーリーが必然化されていく所以である。 


この事態に、一つの必然性が関与している。

 

「海軍には、マーヴェリックが必要だ。あの若者にも、マーヴェリックが必要だ。だから君を推したのだ。だから君はここにいる」 


マーヴェリックの馘首(かくしゅ)の危機を救ったアイスマンの言葉である。

 

マーヴェリックとルースターが抱えるトラウマの克服を願って、重い病に伏すアイスマンは二人を近接させたのである。

 

恐怖突入させたのだ。

 

かくて、ミッションの重い課題を背負うマーヴェリック。

 

何より、ルースターを含め、「全員生還」のミッションであること。 


ルースターの成長が不可欠であること。

 

且つ、トップガン全員のチームワークがなければ成功しないミッションであること。

 

マーヴェリックが彼をF-18単座型の僚機(自機と編隊を組む友軍機)に選んだのは、自らが生還し得ずとも、ルースター自身の能力でミッションの成功に導くことに関与し、ルースターの生還を具現化すること以外ではなかった。

 

その結果、ミッションの重い課題は成就する。

 

6人のチームワークで、複座型F-18に搭乗するボブが攻撃目標をレーザー照射し、マーヴェリックが爆弾投下を命中させ、核兵器プラントの扉を開けたところで、ルースターが核兵器プラントの破壊に成功するに至った。 


マーヴェリックの思いが届いたのである。

 

ところが、ルースターを庇うために後方につけたマーヴェリックの機体が、SAMのミサイル攻撃で墜落してしまう。

 

ここで、サイクロンの帰投指令を無視し、ルースターがマーヴェリックを救助するのだ。

 

森林でのマーヴェリックの怒りは、言うまでもなく、自らが犠牲になって成功したミッションの中のコアだったルースターの生還という至上命題が崩されたことにある。 


しかし、「“考えるな”と言ったろ!」というルースターの反駁(はんばく)で返す言葉を失うマーヴェリック。 



まざまざと、ルースターの成長を見せつけられたマーヴェリックが、その直後、次々に襲う危機については、梗概で書いた通り。

 

そして、これもサイクロンの指令を無視した、マーヴェリックの教え子のハングマンによって救済されるというオチに軟着する。 


このことは、12人の教え子の中で、「全員生還」というマーヴェリックの理念が定着していたことの証左であった。

 

ミッションを成功させ、全員を生還させる中年パイロットの人道的理念の広がり。

 

これこそ、この映画のメッセージだった。

 

まさに、「全員生還」という中年パイロットの思いが雪の渓谷を切り裂いていったのだ。 


いつものように、「驚かしの技巧」(極端な偶然性依存)をインサートして構築したハリウッドの娯楽アクションの中に、些か錆び付いた感のあった、【正義(ならず者国家の核プラント破壊)、人道(全員生還)、弱者救済(若者のトラウマの克服)】というクラシックな基本命題が復元したのである。  

 

(2023年3月)

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