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2022年11月8日火曜日

前科者('21)  自己救済への長くて重い内的時間の旅 岸善幸

 



1  「人間だから、罪を犯してしまう。私はそれを止めたい」

 

 

 

「村上さん!いるのは分かってるんですよ。会社から電話がありました。無断欠勤はルール違反です!」

 

保護司の阿川佳代(以下、佳代)が、保護観察対象者の村上美智子(窃盗罪 仮釈中)の家を訪ね、玄関のドア越しに声をかける。

 

「うるさいよ!あの会社、人間関係最悪!あたしには合わないの」

「会社変ったの、もう3つ目じゃないですか。誰にだって、会社は面倒なところなんですよ」

「コンビニ勤めのあんたに、何が分かんのさ」

 

佳代(かよ)はその言葉に反応し、傘で窓を割る。

 

「コンビニで何が悪い!」 

佳代



慌てて玄関から出て来た村上を叱咤し、諭していく。

 

「あなたは今、崖っぷちにいるんです!このままなら、奈落の底に真っ逆さまです。そうなったら、助けられなくなるじゃないですか」 


村上は、静かに頷く。

 

【保護司は、仮釈放で出所した受刑者の保護観察にあたる】

 

遅れてコンビニに出勤すると、1時間待っているという女性から、父親のツケを払ってくれと請求される。

 

「もしかして、その人、髪のオデコから薄くて、銀縁眼鏡の?」

「そうそう。あんたのお父さん」

 

佳代は「クソッー!」と叫びながら自転車を走らせ、「父親」の保護観察対象者・田村(詐欺罪)の元に自転車を走らせた。 



「20万円返せなかったら、無銭飲食じゃないですか。詐欺罪で仮釈放は取り消されます」

 

死んだ女房に似てたと言い訳をする田村に佳代は面罵(めんば)する。

 

「詐欺師!保護司騙して、どうする」

 

田村の妻は生きており、身元引受人を断られたいう佳代に、金を貸してくれという田村に「保護司は金を貸せない」と言って断る。 



【保護司は、犯罪者の更生を助けることで犯罪を予防する。非常勤の国家公務員だが、報酬はない】

 

次に向かった保護観察対象者は、自動車整備工場で整備士として働く工藤誠(殺人罪)。 

工藤



身元引受人の中崎の言葉。

 

「相変わらず口下手でな。一度も笑ったことねぇ。あれじゃ、彼女どころか、ダチもできねぇだろ。まあ、前科者らしいわ」

「はあ、確かに口下手ではありますけど」

「まあ、手先は器用だし、車好きそうだし、最後の弟子にしてもいいかなと…保護観察が明けたら社員にする」


「ありがとうございます」

 

佳代は満面の笑みを湛えて感謝を伝える。

 

半年前。工藤誠、出所初日。

 

牛丼を美味しそうに食べる工藤。 



その工藤が向かった先は、保護司の佳代の自宅。

 

佳代が自宅前を履き掃除していると、走っていた小学生3人の一人が転び、それを見た佳代は、「立ちなさい」と声をかける。

 

泣きながら立ち上がった男の子に、「よく頑張ったね」と言って、膝の怪我の手当てをしてあげるのだ。 



その様子を遠くで見ていた工藤が近づいてくると、佳代は笑顔で深々と頭を下げた。 



「お帰りなさい」

「よろしくお願いします」

 

自宅に上がった工藤は、佳代から保護観察についての説明を受ける。

 

「保護観察中の6か月間は、月に2度の定期報告が義務付けられています。場所はここ。私の自宅になります。やむを得ない理由で来られない時は、必ず連絡を入れて下さい。犯罪を誘発する人間や場所は訪ねたりしないで下さい」 



神妙に返事をしていた工藤に、佳代は大きな声で宣言する。

 

「精一杯、工藤さんの更生に寄り添っていきたいと思います!」

 

そして、佳代はお腹が空いているだろうと、工藤に食事を持って来た。

 

牛丼だった。

 

「頑張りすぎないで下さいね。大切なのは、“普通”だと思うんです。頑張り過ぎたら普通じゃなくなります。普通って、人それぞれですけど、工藤さんの本当の普通は、保護観察に終わった後に始まると思うんです。だから、半年の間、じっくり自分と向き合って下さい」 



その言葉に反応した工藤は、佳代に質問をする。

 

「阿川先生。覚えてないんです。先輩を刺した時の自分。気が付いたら先輩が倒れていて、頭の中が真っ白で、殺した時のこと、思い出そうとしても思い出せなくて。本当の自分は人殺しの自分で、また人を殺してしまうかも知れない。阿川先生。人殺しでも、更生できると思いますか?」


「はい。できると思います」
 



ここまで、若き保護司・佳代の熱心な仕事ぶりが伝わってくるシークエンスだった。

 

【現役の20代の保護司は僅か12人と言われる。因みに、40歳未満の保護司はたった0.8%である/「20代は日本でわずか12人だけ...。罪を犯した人の更生を支える「保護司」の切実な現状」より】 

大阪府北部に住む櫛辺悠介さん(くしべ ゆうすけさん/28歳)



現在。

 

交番の巡査部長の金田が何者かに襲われ、拳銃を奪取される事件が起きた。 


犯人は警官を撃ち、逃走している。

 

佳代は、東京保護観察所・処遇第一部門の保護観察官、高松に担当観察者の報告をする。

 

工藤が順調であることを二人で喜び、工藤のこれまでの苦労の過去の一端が明らかにされる。 

高松


「目の前で義理の父親に母親を殺害されたのが、10歳の時。二つ下の弟と二人、児童養護施設に入り、その後は施設と里親の家を転々として、24歳で就職したパン工場で、先輩から耳の鼓膜が破れるほど激しい暴力と虐めを受けた。どこにも行き場のなかった工藤は、虐めに耐えたが、4年後、包丁で先輩を刺殺する。殺害のきっかけは、先輩から受けた侮辱的な言葉だった。『お前のような奴は、生きていても意味がない。お袋みたいに殺されちまえばよかったのに』…他の犯罪に比べて、殺人の再犯率は低いんです。殆ど、一時の怒りや不満から衝動的に犯行に及んでしまう。工藤もきっと、そうだったんでしょうね」 



工藤は仕事を終え、社長と共にラーメン屋で食事をしていると、若い男が相席し、ぶつぶつと何かを呟いている。 



店を出たその男の後をつける工藤。

 

途中で佳代からの電話で、2日後の報告を神社で会うことを約束する。

 

佳代が自宅に帰ると、元受刑者で対象者だった斉藤みどりが友達を連れて上がり込み、すき焼き鍋を囲んで騒いでいた。 

みどり


地下アイドルの社長をしているみどりが、打ち上げに佳代の家を選び、特上の牛を食べさせようとしたと言うのだ。

 

喜んでそれを賞味する佳代。

 

「前科者なんか忘れて、もっと自分の違う人生を生きろ」


「みどりさん、更生って、生き返るっていう意味なんですよ。もう一度、人間として生き返るんです。そこに立ち会えるのって、なんか、すごくないですか?」

「前科者が生き返っても、せいぜいゾンビだろうけどな」

 

拳銃奪取事件を担当する滝本真司とベテラン鈴木充の人の刑事。

 

一命を取り留めて入院中の金田に、滝本が事情聴取をする。

 

「心当たり、ありますか?」

滝本


 

「いいえ」と答える金田に、今度は鈴木が質問する。

 

「おいあんた、監察にマークされてるの知ってんだろ。かなりの要注意人物だ。警察官の立場を利用した脅迫に恐喝、後輩への暴行とハラスメント、相当、恨み買ってたんじゃないのか?」 

 鈴木


その尋問を無視して、携帯のゲームを続ける金田。

 

再び、発砲事件が起きた。

 

繁華街で人連れの中年女性の一人が撃たれ、田辺やす子という区役所の福祉課職員が死亡するに至った。 



定期報告の日、約束通り神社にやって来た工藤と佳代は、公園の芝生に腰を下ろす。

 

保護観察が満了したら、お祝いに食事に行こうと佳代が誘うと、昔、母と弟と行ったラーメン屋に行きたいと言う工藤。 


ここでお祝いをしようと言う佳代の顔を見て、工藤の顔が綻ぶ。

 

「阿川先生は、どうして保護司をしているんですか?」


「…話すと少し長くなるんです。私も色々ありましたから」

「聞きたいです。長い話」

「それじゃあ、いつか折を見て」

「いつか、聞かせてください」

 

定期報告も残り一回となり、あと週間で保護観察も終わる。

 

滝本と鈴木は、殺された福祉課の課長だった田辺やす子の上司や同僚に聞き込みをするが、「聖人」と言われるほど慕われ、恨みを買うような人物ではないとの証言を得る。 

「聖人みたいな人でした」と話す森山(同僚)



そこに、警視庁に送られてきた匿名メールを受け取った。

 

「偽善者に天罰が下った…」 



一方、雷雨の中、工藤が訪ねたのは、弟の実(みのる)の住むアパートだった。 


先日、ラーメン屋で相席をした若い男が、その実だったのだ。

 

長年会っていなかったが、弟と気づいた工藤は、実の後をつけ、声をかけた。 



実のアパートに着くと、実はいきなり俯(うつぶ)せて苦しみ出す。

 

工藤が抱き起すと、「兄ちゃん、どこにも行かないで!どこにも行かないで、兄ちゃん」と泣きながら、言葉を繰り返すのだ。 



医者に行こうと言うと、実は違法薬物を口にする。

 

「そんなの飲んでたら、おかしくなるだろ」

「飲まないと死にたくなるから」

「どこで手に入れんだ」

「俺の体、買ってくれる人いるから」 



施設で兄が出て行ったあと、激しい虐めに合った実は、働いても給料も低く、誰からも相手にされず、社会で孤立し、極度の薬物依存症になっていた。

 

実が起き上がり、散歩に行こうと言うので、二人は車を降りて、橋の下の河川敷に腰を下ろした。

 

「兄ちゃんに会えて嬉しい」


「俺も」

 

急に立ち上がった稔はフードを被り、自転車に乗った男が近づくや、いきなり発砲した。

 

驚いた工藤が倒れた男に近づくと、自分も知っている養護施設職員の浅井だった。 

浅井の死体を見て驚愕する



車に走って戻った実に、工藤が問い詰める。

 

「お前、何やってんだ!」

「だって、もうやっちゃったもん」


「警察、行こう。自首しよう」

「やだよ。俺、死刑になっちゃう」

 

銃を渡せと怒鳴る工藤に、実が渡したのは、写真付きの殺害リストだった。

 

「お母さんに何もしてくれなかったお巡りさん、お母さんを必ず助けるって言った人、俺に薬を飲ませた先生…弾はまだ残ってる…殺さないと変われない。俺も、兄ちゃんみたいになりたいから」


「ダメだよ!」


「兄ちゃん、一緒にやろう」

 

その頃、最後の定期報告日に工藤が来ないので、佳代は社長をかけ、工藤の部屋に走っていく。 



上司の高松に相談する佳代。

 

「仮釈放は取り消され、見つかれば逮捕、刑務所に収監されることになるでしょう」

「私はこれから工藤さんを探そうと思います」

「もう、我々にできることはありません」 



その夜、みどりが佳代の家を訪ね、本を貸して欲しいと探し、中原中也(昭和初期に夭折した詩人)の詩集を手にすると、「殺す!」と殴り書きされているページを見つけてしまう。

 

「これは貸せません!秘密です」

 

慌てて本を奪い取る佳代。 


「私にだって、他人に入って欲しくない場所があるんです!」

「他人か。友達だったら貸してくれんのか」

 

嫌味を言って、去っていくみどり。

 

一方、現場検証後、殺された浅井を知る元養護施設担当の内科医を訪ね、事情を聴く滝本と鈴木。 

現場検証に立ち合う滝本と鈴木



浅井は施設の子供たちをすぐ殴り、暴れると薬を飲ませたと話す内科医。 



軍隊並みの厳しい環境で、当時は内科医でも精神科の薬を処方することができたのだった。

 

被害者の爪に付着していたDNAから、容疑者が工藤誠と判明し、10歳まで浅井の働く施設にいたことで関係も繋がった。

 

仮釈放中ということで、滝本らは保護司である佳代の元にやって来た。 



その滝本は、佳代の中学時代のボーイフレンドだった。

 

工藤の所在を聞かれるが、犯人と信じられない佳代は、何も答えられないと言う。

 

「保護司なんて、何も知らない。本当の工藤さんのこと、私は何も知らないの!」 



佳代は過呼吸になり、その場で倒れ込んでしまう。

 

忌まわしい過去の思い出がフラッシュバックするのだ。

 

滝本と二人で公園を歩いていると、佳代はベンチに座っている男と目が合う。

 

一人で帰るところで、再びその男が現れ、「バカにしやがって」と言いながら、刃物で佳代に襲いかかって来た。 



そこに、滝本の父親が入り込み、男に刺されて落命する。 



自宅に佳代を送って来た滝本は、佳代と結ばれるところで、父が殺された時の事を思い出す。

 

「あの人殺しは今、刑務所を出て、普通に暮らしてる」

「人間だから、罪を犯してしまう。私はそれを止めたい」

「阿川。人殺しは人間じゃないよ。工藤誠は、また人を殺したじゃないか。苦しむ遺族を生んだじゃないか。工藤から連絡があったら、教えてくれ」 



最後は、現役刑事としての立ち場を崩すことなく立ち去っていく滝本。

 

その後、偽善者と告発するメールを送ったのは、実は田辺の部下の森山だった事実が判明する。 



25年前、工藤の母親が殺された事件でのミスをした田辺が、正規の職員に取り立てることを条件に罪を被ったのだった。

 

「幸恵さんが相談に来るとき、子供を連れて来たことがありますか?」

「いつも、男の子が二人。お母さんにベッタリだった」 



そこで滝本は工藤の顔写真を見せ、確認する。

 

回想。

 

父が犠牲になった事件後、図書館にある中原中也の詩集に、殴り書きをする滝本。 

滝本少年


「殺す、殺す、お前は、なぜ生きている」 



その様子を見ていた佳代は、本を手に取り、そのページを見て涙を零し、カバンに入れて持ち帰る。 



現在。

 

佳代は、工藤が勤めていたパン工場に行き、元同僚に話を聞く。

 

「ずっと独り。ずいぶん虐められていたから。事件の時は、お袋のことバカにされて、なんかブルブル震え出してさ。震えが収まったと思ったら、あっという間に先輩を刺しちゃった…でも、倒れた先輩の血が床に広がり出して、それを見た途端、包丁を放り投げて、急に半狂乱になって叫び出して」


「何を、工藤さんは叫んだんですか?」

「母さん、ごめんなさい。護れなくてごめんなさい。そんなこと」

 

一方、滝本たちが入院中の金田に、25年前の事件を追及する。

 

相変わらず、捜査に非協力的な金田を暴力的に脅し、吐かせるのだ。

 

「殺された女房から、事情を聴いているときに、知り合いから急用の電話があって、夫婦でよく話し合うようにって、帰ってもらった」


「知り合いって」

「行きつけの店のホステス」

「お前、姉ちゃんに会いたくて、相談に来た女房を、暴力亭主の元に返したのか!おい、お前が職務全うしてりゃ、女房、死なずに済んだじゃないか!」

 

工藤と実が次に車で向かったのは、母親を殺して、警備員をしている義父の遠山だった。 


「あんな小さかったのか」

 

遠くで遠山を見た工藤が呟いた。

 

「お母さん死んじゃったのに、笑ってるよ」 

遠山(左)



実がそう言うと、工藤の脳裏には、死んだ母親の姿が浮かんでくる。

 

佳代の元に工藤から電話が入るが、警察に盗聴されていた。

 

「今、どこにいるんですか?」


「ご迷惑をおかけしました。阿川先生」


「一体、何があったんですか?」

「やっぱり戻れない」

「何を言ってるんですか。ちゃんと答えてください」

「もうすぐ終わりにします」

「私は、工藤さんと、ラーメンが食べたいです。待ってます。あのラーメン屋で待ってます。だから来てください。一時間後。9時に来てください。必ず来てください」

 

佳代が店の前で、2時間待っても工藤はやって来なかった。

 

警察が店内で待機していたことを知り、佳代は怒りをぶつける。 

「警察だったら、何をやってもいいんですか!」



警察は撤収し、佳代は店に入ると、隣に滝本が座る。

 

工藤について話を聞きたいと言う佳代。

 

「なぜ、そこまで工藤に拘る」


「彼の更生に寄り添うと、約束したの。私は、人が更生するために、本当に何が必要なのか分からなくなってる。だから知りたいの」
 



沈黙の中から言葉を発する滝本。

 

「3人の被害者は、全員が工藤誠の転落に関わっていた。襲われて銃を奪われた警官は、工藤の母親から夫の虐待の相談を受けていた。でも、無視した。二人目の被害者は、工藤の母親が夫から逃れようと転居を相談した福祉課の職員だった。でも、伝達のミスで転居先の住所を夫に知られ、母親は殺された」


「銃を奪われた警官は、工藤の母親から夫の虐待の相談を受けていた」(滝本)/児童期の兄弟(右)


「二人目の被害者は福祉課の職員だった」



「3人目の被害者は?工藤さんに何をしたの」

「母親を亡くして、工藤と弟は施設に入った。そこで二人は、管理のために暴力を振るわれ、薬を飲まされた」

「4人目は誰?」

「もう聞くな。俺たちに任せろ」

 

そう言って、滝本は店から出て行くが、残された佳代は泣きながらラーメンを啜るのだ。 


 

 

2  「辛い時は辛いと言ってください。人間に生き返るために、精一杯叫んでください。いつか、一緒に、ラーメンを食べましょう」

 

 

 

コンビニにみどりが訪ねて来た。

 

「刑務所行ったら、皆、あたしみたいな人間ばっかり。そういう連中が罪を犯してから出会うのは、真っ当で強い人間ばかり。あたしを捕まえたお巡りも、国選の弁護士も、反省しろって言った裁判官も、決まり事ばっかり押し付けた刑務官も、皆そう。あいつら、世間を代表したようなツラして、今日からまともになれって言った。世間なんて言うのは、本当は正体なんかなくて、あたしらみたいな前科者がいるから、世間の代表みたいな顔をしてられんだろって思ってた。佳代ちゃんに会って、ちょっと考え変わったんだ」 


「どうしてですか?」

「あたしらみたいな人間以外にも、こんな弱い人間がいるんだって分かったから。弱いからいいんだ。佳代ちゃんの弱さは武器だから。ダメダメだから、安心できる。佳代ちゃんが隣にいると落ち着ける。前科者に必要なのは保護司じゃない。佳代ちゃん、あんたみたいな人間だよ」 


その言葉を聞いて、涙ぐむ佳代。

 

佳代は、ネットで調べ、工藤の義父の遠山の弁護した宮口エマの弁護士事務所を訪ねた。 

宮口



工藤の更生のために必要だと、遠藤の住所を聞き出し、帰り際に、佳代はなぜ遠山の弁護を引き受けたかを訊ねた。

 

「加害者が残酷な殺人者でも、更生という点で線引きがあってはならないの」 



早速、遠山の家を訪ねた佳代は、遠山が宮口の話す通り、更生できた人物という印象を受ける。

 

佳代が子供の頃の工藤ついて尋ねると、自分のことをお父さんと呼んでいたが、母親を殴り出してからはなくなり、実を投げ飛ばした時に、一度だけ、殴りかかってきたことがあったと話す。 

遠山



子供の頃の写真がないかと聞かれた遠山は、宮口が裁判で使用し、自らが家族を撮ったビデオを再生した。

 

動物園で楽しそうにしている3人の映像をまともに観れず、顔を背ける遠山。 



滝本ら警察も、遠山のアパートの近くで待機し、工藤が現れるのを見張っている。

 

そこに、車がやって来て、工藤が確認されたが、後部座席にいた実が車から降りて来たところで、警官は一斉に確保に向かった。 



実が捕まりそうになると工藤は、警察に囲まれる中で車を発進し、鈴木を跳ね飛ばして妨害する。

 

そこで滝本が、工藤のフロントガラスに向けて銃を発射させた。 




実は遠山の部屋のドアを蹴り続けて開け、目の前にいる遠山に銃を向けると、遠山は目を瞑り覚悟していたが、実は躊躇して撃てなかった。 



捕まった実は涙を流し、連行されていく。

 

警察車両に乗った工藤が、実の名を叫ぶや、実は「兄ちゃん」と反応した直後、押さえつける警官の銃を引き抜き、自殺するに至るのだ。 




一転して、入院中の工藤のシーン。

 

工藤は今、幼い頃の母子でラーメンを食べたこと、実と施設で過酷な虐待を受けていたこと、実と再会してからのことなど、思いを巡らせていた。 



「ごめんなさい、ごめんなさい」と呟く工藤。 



一方、DNA鑑定や目撃情報などの結果、3人の被害者がすべて実の犯行であることが明らかになった。

 

3人目のDNA鑑定は、弟を守るために捜査を撹乱しようと、工藤が偽装したものだったのである。

 

工藤は、弁護士を呼んでくれと頼んだが、工藤が指定したのは、兄弟の義父で、母を殺害した遠山の弁護をした宮口だった。 

「先生…弁護士さんに連絡とることできますか?」



滝本が死んだ実の所持品を点検していると、その中に、残った実弾一発と、既に襲った4人の他に5人目のファイルが見つかった。 


宮口である。

 

滝本は、すぐに工藤の弁護を取り次いだ佳代に電話をし、宮口がいつ工藤に会いに行くかと聞き質す。

 

まもなくその時間が迫り、病室の工藤は、隠してあったハサミを取り出し、宮口が入って来るのを震えながら待ち構えていた。 


ドアを開けて入室して来たのは佳代だった。

 

佳代は、ハサミを持った工藤を見るや、思い切り頬を叩く。 



「これ以上、被害者を生んではいけない!これ以上、加害者を生んではいけない!もう、終わりにして!」 



ハサミを持った手を押さえ、佳代はそっと工藤を抱き締める。

 

「戻って来て。このままじゃ、人間に戻れなくなっちゃう。戻って来て」 



二人は病院の一室で、一対一で向かい合い、佳代は、自分が保護司になった理由を話し始める。

 

「それじゃあ、いつか折を見て」と約束した佳代の告白が今、開かれていく。

 

「私は、中学生の頃、暴漢に襲われました。ナイフを突き付けられて、動けなくなった時、ある人が助けてくれたんです。でも、その人は、私の代わりに刺されて亡くなりました。その後、私は事件のことを忘れようとしました。高校へ出て、大学へ行って、就職して、何かに夢中になれば忘れられると思いました。でも、何をしても離れなかった。体を壊して会社を辞めた頃、ふらふらで歩いている男の人を見かけました。自分を襲った人のことが真っ先に浮かんで、私はとっさに離れました。その時、女の人が走って来て、その男の人を叱りつけたんです。諦めちゃダメだって、いきなり叱りつけて、持っていたあんぱん食べさせて、男の人の手を取って帰って行きました。私は後を追って、尋ねました。女の人は保護司で、男の人は元受刑者だと教えてくれました。諦めるなって言ったその人の言葉、自分に言われたような気がして、ああ、生かしてもらった命だから、応えなきゃいけないって思って。私を襲った人も誰かが寄り添っていたら、事件を起こさなかったかも知れない。だから私、保護司になろうって決めたんです。工藤さんは実さんのことを可愛がっていたんですね」 



工藤は首を強く横に振り、吐露していく。

 

「施設を出てから、自分のことで精いっぱいで、何もしてやれなかった。あいつ、小さい頃は泣き虫だったんです。でも、お袋が殺された時から泣かなくなりました。動かくなったお袋の傍で、母さん、母さんって、ブルブル震えてました。だから、俺、震える実を抱き締めました。大人になったのに、あいつまだ震えてました」


「工藤さん、あなたは犯した罪を裁かれ、刑務所に戻らなければなりません」


「はい」

「今度の刑期を終えて、再び社会に戻った時、あなたには中々仕事が見つからないかも知れない。住む場所も貸してもらえないかも知れない。法律や福祉だけでは、あなたを助けられない。それが現実です。でも、辛くなったら私を訪ねて下さい。私がお手伝いします。辛い時は辛いと言ってください。ちゃんと、私に伝わるように叫んでください。人間に生き返るために、精一杯叫んでください。いつか、一緒に、ラーメンを食べましょう」 

「いつか、一緒に、ラーメンを食べましょう」



工藤は佳代の話を聞き、嗚咽を漏らす。 



廊下で二人の話を聞いていた宮口らが、部屋から出て来た佳代を出迎える。

 

宮口は工藤の弁護を引き受けると部屋に入り、滝本は署に戻って行く。

 

佳代は滝口を追い駆け、声をかけた。

 

「“なぜ、お前は生きている”…保護司になることが、私の出した答えなの」 



滝本はその言葉を受け止め、「元気で」と言って別れた。 



佳代は、中原中也の詩集に書かれた滝本の言葉を消しゴムで消し、みどりを伴い、本を持ち出した中学校の図書館へ返済しに行く。 



「何で、あたしを連れて来た?」

「友達だから」

「そっか」


 

佳代は笑顔で返すのだ。 


 

 

3  自己救済への長くて重い内的時間の旅

 

 

 

2021年の法務省の「犯罪白書」において、昨年、刑法犯で検挙された犯罪者の「再犯者率」は過去最悪の49・1%という驚くべき数字が公表された。 

「再犯者率」過去最悪49・1%



COVID-19の感染拡大の影響で出所者の雇用状況の悪化が指摘され、就労支援などの再犯防止対策の充実が喫緊のテーマになっている。

 

かくて、2019年に刑務所を出所後、2年以内に再び罪を犯して入所した「再入率」は15・7%となり、21年までに16%以下にするとの政府の数値目標を達成した。

 

中でも注目されるのは、出所後に保護観察がつかない満期釈放者の再入率が23・3%にも拘らず、仮釈放者の10・2%と2倍以上の開きがあったこと。(「再犯者率」過去最悪49・1%、コロナ禍で出所者の雇用状況悪化か…犯罪白書」読売新聞オンライン・2021年12月24日)

 

保護司の存在の重要性が検証されたのである。

 

その保護司は「保護司法」に基づき、法務大臣から委嘱を受けた非常勤の国家公務員(民間ボランティア)で、保護観察官(更生保護に関する専門的な知識に基づいて、保護観察の実施などに当たる国家公務員)のアドバイスを受け、「保護観察」(更生のルールの遵守)を守るよう指導することに加え、釈放後の帰住先の調査、引受人との話合い、就職の確保などの「生活環境調整」と、“社会を明るくする運動”に象徴される「犯罪予防活動」を果たしていく大変な任務を負っている。(「法務省【保護司ひとくちメモ】」) 

保護司ひとくちメモ」より



【「社会を明るくする運動」とは、私たちみんなが犯罪や非行の防止と立ち直りについて考え、それぞれの立場で力をあわせて犯罪や非行のない地域社会を築こうという全国的な運動です。事件や犯罪は毎日のように起こっています。取締を強化したり罪を犯した人を厳しく罰することはもちろん必要なことですが、それと同時に罪を犯してしまった人が、その罪を償い立ち直ろうとした時には社会がきちんとその人を受け入れていくこと。そして非行や犯罪を生み出さない家庭や地域社会を作っていくことが最も重要なことだと思います/「小松能美保護区保護司会」より】 

「社会を明るくする運動」



加えて書けば、保護司の負担を軽減するために求められているのは、更生保護が国の刑事政策の一環なのに、肝心要の保護観察官を増やすことなく、民間ボランティア保護司に依存している現状を、時代の変化に応じてアップデートしていくこと ―― これに尽きるのではないか。 

保護観察所



まさに、映画で描かれた世界である。

 

寄り添っても、寄り添っても、どれほど寄り添っても弾かれてしまう。

 

そんな思いで保護観察対象者に対峙し、「人間だから罪を犯してしまう。私はそれを止めたい」と言い切った保護司・佳代のルーツは、中学時代の殺人未遂事件に被弾したこと。

 

しかも事件で、ボーイフレンドだった滝本の父親が自分を守るために犠牲になってしまったのだ。

犠牲になった滝本の父親


 

この事件が、一人の女性の運命を決定づけていく。 

事件がフラッシュバックする



「サバイバーズ・ギルト」(生存者罪悪感)に苛まれるのである。 

サバイバーズ・ギルトを描いた日中韓合作「湖底の空」



心のケアが切に求められるにも拘らず、佳代は滝本から精神的暴力を被弾する。

 

「お前は、なぜ生きている」 


佳代の愛読書・中原中也の詩集に殴り書きされた滝本の一語が、父を殺して、普通に暮らしている犯人への弾劾である以上に、生き残された女子中学生への攻撃的言辞であることは疑いようがなかった。 

「お前は、なぜ生きている」と殴り書きする滝本少年


それを隠れて見る少女・佳代


詩集を本棚に戻す滝本


詩集を見て、涙ぐむ少女



少女が負ったPTSDの破壊力は、「事件のことを忘れようとしました。高校へ出て、大学へ行って、就職して、何かに夢中になれば忘れられると思いました。でも、何をしても離れなかった」という彼女自身の告白で確かめられる。

 

女性保護司との出会いによって自らの生き方を決め、若くして保護司という「仕事」に自己投入していく佳代は、「人間だから罪を犯してしまう。私はそれを止めたい」と括って「仕事」に専心する。

 

罪を犯してしまった者の更生に命を懸けるのである。

 

罪を犯しても更生することで、人間は変わる。

 

そう信じて止まないのだ。

 

然るに、保護司・佳代の中枢を占有するのが、事件に対する贖罪の観念であると言える。

 

それはサバイバーズ・ギルトの重圧を超えて、「お前は、なぜ生きている」という暴力的言辞を浴びた彼女が、PTSDと向き合ってもなお消えない贖罪意識である。

 

そのことを感受させる重要なエピソードがある。

 

「刑事」と「保護司」という御都合主義的な再会で、滝本が事件当時の苦衷を佳代に語るシーンである。

 

「親父が殺された現場には花が一杯だった。でも花が枯れて悪臭を出す。近所の住民から苦情が出る。そんな花を片付けるのは誰だと思う?遺族だ。花びらがアスファルトにこびりついて、ブラシで何度もこすっても取れなかった。惨めだった。あの人殺しが刑務所を出て、今は普通に暮らしている」 



これが、「お前は、なぜ生きている」という暴力的言辞に結ばれたのだが、その心理は理解できなくもない。

 

当時、尊敬すべき父を喪った中学生の苦衷を掬い取っているからである。

 

しかし、それを被弾した少女には、PTSDと向き合ってもなお消えない贖罪意識を浄化させる生き方への自己投入しかなかった。

 

この贖罪意識を浄化させるには、罪を犯して煩悶するような対象者を更生させることで、その都度、自己を許していく。

 

しかし、現実は甘くなかった。

 

映画の冒頭で挿入された2件の対象者のように、更生の実感を手に入れられないケースばかりなのだ。

 

どれほど寄り添っても弾かれてしまう苛立ちが、傘で窓を割るような乱暴な行為に振れていく。 


それでも、彼女は保護司を止めない。

 

更生の難しさを目の当たりにしても、止められないのだ。

 

止めたら、澱と化して、生き残された贖罪意識を浄化できないのである。

 

そんな彼女の唯一の救いは、自動車整備工場で働く工藤の存在だった。 




真摯に働き、不安を抱えながらも、真摯に日常性を繋ぐ工藤の更生が、彼女の自己救済になっていく。

 

だから、常にアウトリーチする。

 

「大切なのは、“普通”だと思うんです。普通って、人それぞれですけど、工藤さんの本当の普通は、保護観察に終わった後に始まると思うんです。だから、半年の間、じっくり自分と向き合ってください」 



その言葉に励まされる元殺人犯がいる。

 

「阿川先生。人殺しでも、更生できると思いますか?」


「はい。できると思います」
 



工藤の更生に全てを懸ける保護司が、「仕事」を通して最も輝いていた時間だったが、これが工藤の失踪と、彼が起こした事件によって瓦解してしまった。

「これ以上、加害者を生んではいけない!」

 

「もう、終わりにして!」



事件を目の当たりにして、空白と化した保護司の総体が崩れていくのだ。 

崩れ落ちる佳代と遠山(左)



そして迎えた正念場。

 

更なる事件に振れる男の頬を打ち、保護司は自らのルーツを吐露していく。 

「諦めちゃダメだって、いきなり叱りつけて、持っていたあんぱん食べさせて、男の人の手を取って帰って行きました」



それは、彼女の「弱さ」の吐露でもあった。

 

「弱さ」(「弱さ」の中の「強さ」)の吐露に真摯に向き合う男の変容を見て、浄化されていく若き保護司。

 

鼻水を垂らして保護司の告白と激励の言葉を聞く男の「弱さ」(「弱さ」の中の「脆さ」)もまた、浄化されていくのだ。


 

「弱さ」と「弱さ」寄り添っている時間の重みは、人間と人間が寄り添うことで変容していく時間の重みだった。

 

この会話は物語のラストの決定的な伏線と化していく。

 

この映画は、どこまでも、一人の女性のトラウマを掬い切っていくことにある。 

「保護司になることが、私の出した答えなの」



塀の中に戻っていっても更生し切って社会復帰するだろう男を信じることで、贖罪意識を浄化し、自己救済への長くて重い内的時間の旅に区切りをつけていくのだ。

 

かくて、自分の「弱さ」を見抜き、共感するみどりを連れ、中学時代に借りた図書館に行くのである。



「お前は、なぜ生きている」という文字を削った詩集を持って。


ファーストシーンが回収されたのだ。 



これは要するに、暴力的言辞に埋もれた詩集を戻しにいくまでの、一人の女性の、自己救済への長くて重い時間の旅の物語だったのである。 

「惚れんなよ」(ラストカット)



岸善幸監督は「“許す”こと」がテーマであると語っているが、私にとって、それはヒロインの「自己救済」と同義であると考えている。


―― それでもなお、この映画には書き逃げできない重要なテーマが残されている。


兄弟が抱えるダークな心の風景の問題である。

母の死体を目の当たりにする兄弟


施設でのDV



これは佳代の場合と比較すると、瞭然とする。


そのトラウマのルーツが思春期にある佳代と、児童期にある兄弟の差異には、状況下で負ったPTSDの破壊力と、三者三様の自我形成の時期の径庭(けいてい=隔たり)が大きく関与するだろう。


佳代の「弱さ」の中の「強さ」と異なって、「頭の中が真っ白」になって殺人事件を起こした工藤の場合、感情コントロールの制御困難な状態(情動失禁)によって瞬時に怒りを噴き上げる「間欠性(かんけつせい)爆発性障害」の発現と思われるものの、「寡黙」という武器で社会適応を辛うじて繋いでいるという文脈において、その「弱さ」の本質は、「弱さ」の中の「脆さ」であると言っていい。



ところが、最年少の実の場合は、隠し込めない「弱さ」が剥(む)き出しにされている。


兄と同様に、義父による重なるDVと母の無残な死を目の当たりにして、感情を表出できないほど、児童期自我が傷つけられたばかりか、そこに施設での虐待の負荷が累加され、完全に適応障害の状態を曝すのだ。

「護れなくてごめんなさい…ごめんなさい」(母の死体を見て、泣きながら謝る工藤少年/感情を失った実)


「兄ちゃんが出て行って、テツ君が里子でいなくなって、それで俺が虐められた」



実の薬物依存症は、その負の産物である。

「俺の体、買ってくれる人いるから」(実)



兄弟共に同じルーツを持ちながら、薬物依存症の負荷が加わって、実の脳萎縮は殆ど自我機能を不全化していて凄惨な限りである。


虐待の連鎖に起因する脳萎縮が実の「弱さ」を固着化し、彼の自我を食い潰してしまったのだ。


再会後も、兄への絶対依存を延長させて生きている男の、「弱さ」の中の「弱さ」という、復元不能な凄惨なる風景だけが、虚空に捨てられたのである。

「兄ちゃん、どこにも行かないで!」


「兄ちゃん、一緒にやろう」と言われた瞬間、外傷性鼓膜穿孔(こまくせんこう/鼓膜に穴が開く)で金属音が耳に響くが、一切はDVに起因するのでトラウマが蘇り、これが犯罪への呼び水となってしまう



それでも、本来のターゲットである義父殺しに躊躇する男の内側に残された、寸分の抑制系。



その結果によって引き起こされる兄の「憤怒調節障害」と、その頓挫。



ヒロインの「弱さ」の中の「強さ」によって、視界不良のカオスが収束されるのだ。


―― 有村架純と森田剛が際立つ見応えのある映画だったが、「ドライブ・マイ・カー」を観た後、私の中で邦画のハードルが高くなったのか、御都合主義の展開が気になったというのが正直なところ。

岸善幸監督



社会派系エンタメとして受け入れれば、それでいいのだろう。

 


【余稿】 「修復的司法」という新たな取り組み


ここで、許すことの可能性を追求する司法の新たな取り組み「修復的司法」について、簡単に言及していく。

 

我が国と異なって、ディスカッションを苦手としない欧米において普及が進んでいる「修復的司法」とは、被害者・加害者・地域住民という3者間で話し合っていく取り組みのことで、その目的は人間関係の修復にある

 

ディスカッションを苦手とする日本でも始まっているが、加害者と被害者が直(じか)に対面し、話し合っていくことで、当事者たちの精神的・社会的な問題を解消するという理念があっても、死刑制度が支持されている現状で分かるように、被害者側に加害者と会うことへの拒否感が強いケースが多いために、3者間での対話を支援する目的で設立された大阪市のNPOが解散に至っている。

 

以下、毎日新聞の記事(2014年4月27日)の一部から。 

 

「犯罪の真相を聞きたい被害者と償いの機会を求める加害者を直接対話させ、理解を深めてもらう『修復的司法』の活用が低迷している。13年前、全国で最初に取り組んだ千葉市のNPO法人はここ数年、対話成立の件数がゼロ。5年前から弁護士会として唯一取り組む兵庫県弁護士会も2件しかなく、大阪市では主に活用の伸び悩みからNPOが解散した。被害者側の強い拒否感が大きな要因とみられ、専門家は『粘り強い活動が必要だ』と話している」

 

米英加での大規模な調査(1990年から1996年)では、対話を経験した被害者・加害者の満足度は非常に高いという結果が出たという報告があり、私も賛同するものの、加害者への敵対感情を封印することで、我慢を強いられる傾向の強い我が国では、「修復的司法」に関する知識もない状況下において、この取り組みの実施のハードルの高さを認知せねばならないのだろう。

 

(2022年11月)

































































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