＜保守的な村のルールの縛りを打ち破る女子たちの闘いと屈折の物語＞
１ イスタンブールへの脱出を敢行する二人の少女
「まるで瞬きする間（ま）の出来事。すべてが、一瞬で、悪夢に変った」
物語は、５人姉妹の末っ子・ラーレのモノローグ（以下、モノローグ）から始まる。
イスタンブールに転任する、尊敬するディレッキ先生との別れを惜しみ、嗚咽を漏らすラーレ。
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| ラーレ（左）とディレッキ先生 |
それを慰める５人姉妹（長女・ソナイ、次女・セルマ、三女エジェ、四女・ヌル、五女・ラーレ）の姉たち。
「いい天気だし歩こう」
ソナイの一言で、姉妹たちはバスに乗らずに歩き、海で男子生徒たちと騎馬戦ごっこをし、畑のリンゴを食べ、楽しそうに笑いながら家に戻った。
一部始終を隣人から告げ口され、彼女たちの帰りを待っていた祖母は、「ふしだらなことをしたからよ」と怒り、ソナイとセルマを折檻し、他の姉妹たちも叱られ、大騒ぎになる。
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| 右からソナイとセルマ |
夜になり、姉妹の祖母の息子であり、叔父のエロルがやって来て、激しく捲し立てる。
「母さん、聞き飽きたよ。何年言い続けるんだ。子供だから、自由にさせてやれ？」
「事実よ」
「何が事実だ？あいつらの両親が死んで、もう１０年だ」
「もっと理解を」
「何をだ。あいつらは、もう大人だ。噂を知ってるか？」
「耳を貸さないで！」
「母さんが、あいつらをつけあがらせたんだ」
「母親に向かって、なんて口を」
「俺が、思い知らせてやる」
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| エロル |
エロルは姉妹たちの部屋に入り、折檻し、髪を掴むのだ。
「売春婦のような奴はどいつだ！」
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| 左からソナイ、セルマ、エジェ |
揉み合いになり、押し倒されたエロルの頬を、祖母が叩いた。
「その心配はないわ」
「なぜ断言できる？」
「私の孫だからよ」
「傷ものになっていたら？」
結局、エロルが車に５人姉妹を乗せ、ソナイ、セルマ、エジェの３人が処女検査を受けさせられた。
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| 処女検査を受けさせられる姉妹。左からヌル、ソナイ、セルマ、ラーレ、エジェ |
処女証明書を持って帰って来た３人だったが、以降、５人とも家に閉じ込められてしまうのだ。
「以来、扉には鍵がかけられた。“不埒”なものは禁じられた」（モノローグ）
祖母は化粧道具やパソコン、電話機など、全て処分してしまう。
「閉ざされた家は、良妻育成工場と化した」（モノローグ）
親戚の叔母たちに料理の作り方を習い、裁縫や掃除をする日々。
「とうとう、クソ色の服を着る羽目に」（モノローグ）
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| ラーレ |
ソナイは、恋人・エキンからのメッセージを受け取ると、２階の窓から外に出て行ってしまった。
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| エキンを見るソナイ |
夜になり、再び、窓から部屋に戻って来るソナイ。
ある日、どうしてもサッカーの試合を見たいというラーレが、村から女子全員を乗せてバスが出ると知り、監視の目を盗んで、姉たちと共に家から抜け出した。
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| バスを追い駆ける５人 |
バスは行ってしまったが、見知りのヤシンが運転するトラックを止め、乗せてもらって追い駆け、何とかバスに乗り込むことができた。
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| ヤシン |
スタジアムで歓喜に沸く女の子たち。
５人姉妹はラーレを胴上げして、解放感に酔い痴（し）れるのである。
その様子がテレビに映し出され、それを見た叔母は慌て、祖母は卒倒してしまう。
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| ソナイ（右）とラーレが映っている |
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| 胴上げされるラーレと姉妹らが映っている |
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| 卒倒する祖母 |
「エミネ叔母さんの奮闘は、あとで知った」（モノローグ）
エロルたちがテレビ観戦を始める前に、村中の電源を切ってラーレたちを守ったのである。
「この逃亡が、思わぬ事態を招いた…孫のお披露目だった。数日後、職人が来た。もはや、監獄そのものだった」（モノローグ）
逃亡の結果、家の監獄化が補強され、祖母は姉妹たちの結婚話を次々に進めていく。
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| 監禁状態のソナイとセルマ |
突然、ソナイの結婚相手と、その家族が訪れるが、ソナイがエキンとの結婚を強く望んだため、祖母は次女のセルマを相手として、顔見知り程度のオスマンに引き合わせた結果、双方の親族の承認のもと、その日のうちに婚姻が成立するに至る。
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| セルマとオスマン |
「当人同士が気に入り、女性たちも合意した。神の祝福により、息子に代わり求婚します」とオスマンの父。
「お受けします」と祖母。
「成立です」
ソナイもまた、エキンの家族と会食し、その場で結婚を決める。
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| エキン |
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| ソナイ |
かくて、ソナイとセルマの合同結婚式が盛大に行われた。
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| ソナイとラーレ |
至福に満ち溢れるソナイに対して、セルマは酒を飲み漁り、部屋に籠って泣いていた。
「どうしたの？結婚したくないなら逃げて」とラーレ。
「どうやって？」
「車に飛び乗る」
「どこへ？」
「普通はイスタンブールに」
「１０００キロ先よ。それに運転できない」
５人が集まり、別れを惜しむ。
「元気でね」
「やめて。泣きそう」
「それが、５人が揃う最後だった」（モノローグ）
オスマンとの初夜で出血しなかったセルマに対し、両親が処女を疑い、病院へ検査に連れていく。
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| 両親に見せるシーツに血が出なかったことで戸惑う二人 |
「息子の嫁が、血が出なかったんです」
診察室で、医師に処女ではなかったと答えるセルマ。
「世界中の男と寝ました」
しかし担当医は、内診では処女膜があると指摘する。
「夫婦生活か出産で、そのうち破れるだろう。だが今は確かにある…なぜ、そんな嘘を？」
「分かりません。もうこんな時間です。疲れました。処女だと言っても、誰も信じません。もう、うんざり」
次は、エジェが結婚する番だった。
「エジェは平静に見えた。でも、やがて危うさを帯び始めた」（モノローグ）
ラーレは、家から脱出することばかり考えている。
車を動かそうとしても上手くいかない。
ヤシンに頼み、運転を教えてもらうのだ。
そんな中、エジェが拳銃自殺してしまう。
結婚話が進行中のエジェだったが、彼女はエロルに性的虐待を受けており、自暴自棄になって別の男性とも関係を持つようになっていたのだ。
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| 自暴自棄になっていくエジェ |
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| エジェの死に衝撃を受け、涙を流すラーレ |
エジェの葬儀のあと、ラーレはヌルをイスタンブールへ行かないかと誘う。
「やっぱり逃げたい！」とヌル。
「失敗したら、捕まって殺されるよ。細工をして、逃げ切る時間を稼ぐ」（モノローグ）
ラーレは自分の髪を切って人形に縫い付け、祖母の部屋に忍んで金を手に入れ、イスタンブールのディレッキ先生の住所のメモを探し出す。
一方、ヌルもまた、エジェと同様にエロルの性的虐待の餌食にされ、それに気づく祖母はエロルを咎（とが）め、強引にヌルの縁談話を進めていく。
「結婚も近いわ」
「何？」
「立派な女性よ。私もその歳で結婚したわ。そういうものよ」
「結婚って私が？」
「そうよ」
「誰と」
「あなたの心さえ決まれば、求婚者はいくらでも。私は夫を知らなかったけど、愛するようになった。あなたも恋に落ちるわよ。若いんだから、すぐに」
「冗談よね」
「違うわよ」
こうして、ヌルも結婚相手が決まり、同じプロセスを踏んで婚約が成立した。
結婚式当日、ラーレは家にやって来た花婿の家族を迎え入れず、玄関を出た祖母たちも家の外に締め出し、ヌルと二人で家に立て籠るのだ。
屋外でエロルが開けるように脅すが、ラーレたちは入り口を全て塞ぎ、ヤシンに電話で助けを求める。
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| ヤシンに電話で助けを求めるラーレ／この声はエロルに放ったヌルの言葉で、性的虐待のことを指すと思われる |
窓を壊し、バーナーで鉄格子を焼き、強引に中に入ろうとするエロルから逃げるために、ラーレは車のキーを持って、ヌルと共に脱出を図る。
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| エロルが扉を壊す音を聞くヌル |
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| エロルがバーナーで鉄格子を焼く音を聞くラーレとヌル |
ラーレは夜道を運転するが、車をぶつけてしまい、茂みに隠れて、ヤシンがやって来るのを待つ。
助けに来たヤシンに、バスのターミナルまで乗せて行ってもらうのだ。
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| ヤシンとの別れ |
二人はバスに乗り、イスタンブールのディレッキ先生の元へ向かうのである。
住所を尋ね当て、再会したディレッキ先生の胸に飛び込むラーレ。
「かわいいラーレ」
ディレッキ先生もラーレを受け止め、固く抱き締めるのだった。
２ 保守的な村のルールの縛りを打ち破る女子たちの闘いと屈折の物語
２０２０年１２月に、本作の製作国の一つであるフランスのマクロン政権が、過激化対策の一環として、国内の一部のイスラム教徒が実施している「処女証明書」の発行禁止と、発行した医師には、１万５０００ユーロ（約１８０万円）の罰金と１年の懲役を課すことを閣議決定したという報道があったが、インドネシアのように、女性警察官に「処女検査」を実施する国家も存在する。
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| 【中学校の授業で預言者ムハンマドの風刺画を扱い、それを理由に殺害された男性教師の追悼式典に参列したエマニュエル・マクロン仏大統領】 |
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| 【インドネシア：女性警察官に「処女検査」 検査は差別的かつ残酷で、女性の尊厳を傷つける】 |
この映画でも、より年長の３姉妹に対する処女検査が描かれていたが、その結果は全て処女。
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| 「セルマ、何されたの？」（ラーレ）「処女検査」（セルマ） |
中でも興味深いのは、エキンという恋人がいる長女・ソナイの検査結果。
「エキンとは寝てるけど、私はまだ処女なの。後ろでやる」
ソナイが次女・セルマに吐露した言葉である。
エキンと結婚するに至るソナイの戦略も見事だったが、「後ろでやる」という表現には驚かされた。
アナルセックスで処女を保持する戦略こそ、この長女の抜け目のなさであり、そのパワフルな青春軌道の振れ具合に舌を巻く。
この長女と比較すると、愛のない結婚を強いられ、嗚咽するセルマの表情には悲哀を感じざるを得ないが、男尊女卑の陋習（ろうしゅう）が根強く残る保守的な村のルールの縛りにあって、諦念するしかないのだろう。
そのセルマが、性交後出血のなかったことで産科医の診断を受けることになり、捨て鉢（すてばち）になる辺りは、気が強いソナイと分かれるところである。
主人公のラーレのような脱出行に大きく振れていくという選択肢も、彼女にはなかった。
だから、保守的な村のルールの縛りの中で、祖母がそうであったように、心優しく見えるオスマンとの間で生殖・扶養を経由して、平和な家庭を築くことを拠り所にする外にないように思われる。
然るに、誰よりも、察するに余り有るのは、三女・エジェである。
あろうことか、叔父・エロルの性的虐待の餌食にされ、自死に追い込まれてしまったのだ。
エロルが部屋を離れた直後、彼女の嗚咽が映像に拾われていた。
それは、婚姻という退路すらも塞がれたエジェの悲鳴だったのか。
過食し、他の男と関係を結ぶ自棄的行為の果ての自死。
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| 過食に走るエジェ |
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| エジェ（右）は男と関係を持つ |
その自死が、自己の未来の時間を奪ったエロルの銃によるものであったことを考えれば、紛うことなき、憎き男へのレジストだった。
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| 「これ、何だ」と言って、ラーレに指を見せるエジェ（自殺直前） |
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| エジェを見るエロル |
「傷ものになっていたら？」という男の、度し難いほど矛盾した不行跡（ふぎょうせき）は、本質的に犯罪行為である。
信じ難いのは、この男に、自らが犯した罪に対する疚（やま）しさが読み取れないということだ。
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| エジェの遺体を埋葬する男たちの中にエロルもいる |
四女・ヌルに対しても、性的虐待を繰り返していたこと。
映像は、この不埒（ふらち）な行為を正確に提示せず、観る者はエロルの退室と、シーツを拭き取るようなヌルの仕草から読み取ることが求められるのだ。
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| ヌルの部屋から退室するエロル |
難儀なことである。
ここで、考えてみる。
「傷ものになっていたら？」と言い放つ男の行為は、ソナイのようにアナルセックスだったことで、処女を守ったのか。
エジェの自死は、単に、憎き男に対する、それ以外にないリベンジであったのか。
では、シーツを拭き取るようなヌルの仕草を、どう読み取ったらいいのだろうか。
稚拙な演出に淵源するのか、不明瞭で、回収し得ないカットが気になる映画を観終わっても、了得することができないのである。
しかし、作り手は、一つだけ、極め付きのカットを提示した。
息子・エロルに対する祖母（男の母）の物言いの画（え）である。
「質問に答えて。やめなさい。今すぐに」
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| エロルを責める祖母の声を聞くラーレ |
この言辞を耳にしたラーレが近接したことで、祖母の物言いは切れてしまったが、この密話が、ヌルに対するエロルの性的虐待を咎める含みを持っていたのは疑う余地がないだろう。
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| ラーレに気づく祖母とエロル |
祖母が５姉妹らの三親等である息子（伯父）の犯した罪を咎めたという事実の重みは、この時点で息子の性的虐待を初めて知ったことを意味する。
だから祖母は、エジェに対するエロルの性的虐待を知る由もなかった。
本篇を通して、エロルの性的虐待を看過するような人物として、この祖母は描かれていないのだ。
エロルの性的虐待は、この映画を底流する翳（かげ）りを見せている。
女性に対する強姦及びドメスティック・バイオレンスの増加が報告されていて、「イスタンブール条約」（後述）から脱退した国であるにせよ、親族に対する性的虐待行為は、ムスリムの保守層の人物造形の中で、必ずしも般化されていないのである。
思うに、エロルの人物造形は、特段にアブノーマルな病理性を有する人間として描かれていると言っていい。
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| 合同結婚式でのエロル |
だからこそ、私は失望の念を禁じ得ないのだ。
ラーレの脱出行を描くのに、なぜ、このような男の人物造形を必要とするのか。
もっと普通に、脚色・演出できなかったのか。
どこまでも女性差別の視点で、「監禁からの果敢なる解放の物語」として描けなかったのか。
トルコの文化、経済、学術、観光の中心の国際都市・イスタンブール。
そのイスタンブールに逃げること。
ラーレとヌルが、アブノーマルな男の病的行動から脱出するための決定的なモチーフを、この映画は仮構したのである。
保守的な村のルールの縛りを打ち破る女子たちの闘いと、或いは屈折の物語だったが、エピソードを繋ぐだけの構成力と共に、それが私の最大の不満だった。
訴求力が脆弱だったのは、そこに起因するだろう。
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| デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督 |
【余稿】 トルコでの女性差別の現況
「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンス防止条約」（女性への暴力防止条約）として知られる「イスタンブール条約」に、最初に批准した国家であるにも拘らず、人口の９９％以上がムスリムのトルコが、２０２１年３月に脱退したことが各紙で報道され、欧米からは批判（注）が相次いでいる。
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| ＤＶから女性守る”イスタンブール条約…トルコ離脱 |
（注）「破壊的で、大きな後退だ」（欧州評議会）、「決定の見直しを求めざるを得ない」（ＥＵの外相にあたる、ボレル外交安全保障上級代表）、「誤ったシグナルを送った」（ドイツ外務省）、「影響を受けるトルコの女性たちに、仏は連帯を示す」（仏外務省）／「朝日新聞デジタル」（２０２１年３月２５日）より。
以下、ＡＰ通信の記事。
「『女性に対する暴力撤廃の国際デー』に当たる１１月２５日、国際人権条約への復帰を求める女性グループが、抗議のデモ行進を行ったが、これを規制しようとした警官隊と衝突、イスタンブールの目抜き通りは騒然とした雰囲気に包まれた。
女性に対する暴力と家庭内暴力に反対するための欧州評議会の国際人権条約、通称『イスタンブール条約』は２０１１年５月１１日、同地で署名され、翌年トルコが最初に批准した。しかし今年の３月、エルドアン大統領が同条約からの脱退を突然発表して、女性の人権グループや西欧諸国から一斉に非難を浴びた。
この日は、イスタンブールで調印された同条約への復帰を求める女性グループが、イスティクラル通りをデモ行進したが、これを規制しようとする警官隊と衝突した。条約への復帰を要求するデモは、首都アンカラなど他の都市でも実施された。
女性人権団体によれば、トルコでは昨年４０９人の女性が殺害されており、今年はこれまでに３５３人が殺人事件の被害者となっているという。また１０月には、女性１８人が殺害され、１９人が殺人と疑われる状況で命を落としているという」（「イスタンブール条約への復帰 トルコの女性団体が要求行動」２０２１年１１月２６日／ＡＰ通信）
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先の朝日新聞デジタルによると、「保守層や一部の与党幹部からは『離婚や不道徳な生活スタイルを助長する」などとの意見があった』として、「前政権に比べてトルコへの厳しい姿勢で知られる米国のバイデン大統領は、『深く失望した』との声明を出した」（２０２１年３月２５日）と報じている。
また、「トルコ人権報告書」を翻訳したＰＤＦ（ポータブル・ドキュメント・フォーマット）の文書によると、以下のような人権問題が掲載されている。
「強姦及びドメスティック・バイオレンス：政府及び複数の第三者的監視団体が、女性に対する暴力、特に女性の殺害が２０１８
年よりも増加したという懸念を報告した。法律は、強姦や配偶者の強姦を含む性的暴力を違法としており、性的暴行未遂に対して２～１０年の禁固刑を，また強姦罪又は性的暴行罪に対して１２
年以上の禁固刑を定めている。政府はそれらの法律を実効的又は本格的に執行しておらず、被害者の保護を怠っていた。
（略）報道によると、２０１９年９月の時点で、約１３０００人の女性が
ＫＡＤＥＳアプリを使用して暴力を通報していた。配偶者による虐待などの女性に対する暴力は依然として農村地域と都市部の双方で広範にみられる深刻な問題だった。配偶者に対する強姦は刑事犯罪であり、法律は、暴行、自由の剥奪、脅迫などの犯罪に対して刑事罰も定めている。そうした対策にもかかわらず、女性の殺害、その他の形態の暴力は衰えることなく続いていた。
（略）女性の『名誉殺人』という問題のある慣行が全国的に続いていると報告した（２０１９
年に３１件が報告された）。名誉殺人の蔓延は南東部で最も深刻だった。
（略）複数の人権
ＮＧＯなどが、義務教育に関する法律があるにもかかわらず、女子生徒を家に閉じ込めたままの家庭があることを懸念していた。
（略）法律は、婚姻の最低年齢を１８歳と定めているが、子どもは両親の許可がある場合は１７歳で、また裁判所の承認を得た場合は１６
歳で結婚することができる」（「トルコ人権報告書
２０１９ 年版」より）
現在、リラの暴落で通貨防衛に苦慮するエルドアン政権だが、政教分離を国是にしているにも拘らず、反世俗主義の色合いが濃厚なトルコの〈現在性〉を考える時、以上の報道を読む限り、嫁入り前の親族に対する性的虐待を犯す、エロルのような人物造形が極端な設定であったことを除けば、映画で描かれた世界がリアリティを有することが判然とするだろう。
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| エルドアン大統領 |
【但し、ムスリム＝過激な原理主義という見方は誤っている。拙稿 時代の風景「イスラム教は誤解されている」を参考されたし】
【ここで書いても役にも立たないが、我慢できないので、敢えて書く。
ロシアからの天然ガスの「トルコ・ストリーム」を、トルコ共和国・第１２代大統領・エルドアン公正発展党党首は、プーチンの計画的且つ、国際法違反の犯罪行為・「ウクライナ侵略」の期間だけでも凍結できないのか】
（２０２２年２月２７日）
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