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2022年2月5日土曜日

「罪なき傍観者」を断罪し、復讐劇が自己完結する 映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」('20)の破壊力  エメラルド・フェネル

 



1  覚悟を決め、レイプ事件の本丸に向かっていく

 

 

 

「毎週、クラブへ行って、毎週、立てないくらい酔っ払ったフリをする。そうすると、毎週、まんまと、あんたみたいな“いい奴”が私の様子を見に来る」 

キャシー

昼はコーヒーショップで働くキャシーは、夜になるとクラブで酔ったふりをして、お持ち帰りされ、近づく男を愚弄する。 


お持ち帰りされるキャシー



キャシーのそんな生活を案じる両親は、30歳の誕生日にプレゼントを贈るが、キャシーは自分の誕生日すら覚えていないのだ。

 

「ニーナと医大を中退し、ケチなコーヒー店で働いている。朝まで出かけて、何やってんだか。しかも、彼氏も友達もナシ…友達に、いろいろ聞かれても答えられないのよ。あなたのことは何も…」 


そう言って、泣き崩れる母。 



キャシーは、コーヒーショップに来た医学生時代のクラスメートのライアンと再会する。 

ライアン



早速、ライアンはキャシーをデートに誘い、キャシーはそれに応じた。 



現在、小児外科医のライアンは、医学生時代の友人たちの話を始め、その話にセンシティブに反応するキャシーは、共通の交友関係とコンタクトしていく。 


アルの話が出て、敏感に反応する


まず、双子を産み、子育て真っ最中のマディソンとレストランで会食する。

 

「今日は、あることをは話したくて会いに来たの。大学をやめた理由を話す。あの事件は覚えてる?」


「ぼんやりだけど」

「考えたことない?」

「なぜ私が?」

「そう、なぜ、あなたが?もしも今、友達があなたの家に来て、ひどいことが起きたと言ったら、前の晩に…」

「キャシー、もう昔よ」


「大げさに騒ぐ女だと、あきれた顔で無視?」

「なぜ、私に怒るの?信じない人は大勢いた。誰とでも寝る女だもの。何かあったなんて、まず信じない。それって、オオカミ少年よ…私のせいじゃない。泥酔すれば、何か起きる…望まないセックスでも、誰も味方しない」


「残念ね。考えを変えてるかと。ごめん。あなた自身のためにも…再会できて本当によかった。あなたは昔のまま」

 

キャシーは、デートドラッグを入れたワインを飲み、酩酊状態のマディソンをテーブルに残し、席から離れると、一人の男に部屋の鍵を渡した。 



翌日、マディソンから連絡が欲しいと携帯に留守録が入る。 


「“ホテルの部屋で目が覚めた。何かあったみたい”」 



それを聞いたキャシーは、マディソンの一件をメモ帳に記録した。

 

次にキャシーが向かった先は、ウォーカー学部長のオフィス。

 

キャシーは復学についての相談としつつ、大学を中退することになった経緯を話し、ウォーカーの過去の対応を追求する。

 

「ニーナ・フィッシャー。お忘れですか?アレクサンダー・モローは覚えてます?…部屋へ連れ込んだんです。あなたがお忘れのニーナを。そして何度もセックスしました。友人たちの前で。酔った彼女は状況が分からず、翌日はアザだらけ」


「彼女、報告は?」

「しました」

「話した相手は?」

「あなた。でも、覚えてないのね。あなたは“証拠が足りない”と。“言い分が違いすぎる”とも言った」


「こういう告発は、あまりにも多いのよ。週に1~2回。忘れて悪かったわ。でも、当時は、徹底的に調べたはず」

「彼の仲間は、笑いながら見てました」

「つらいわね。でも、彼女は酔ってた。何も覚えてないほどね」


「酔ってたのが悪い?」

「そうじゃなく…」

「批判ではなく、はっきりさせたいだけ」

「人は自分の弱さを認めたくないものよ。自分の悪い選択と、その過ちによって、害をこうむり、悔やむことになる…私にどうしろと?告発のたび、前途有望な青年の人生を潰せと?」


「男の言い分を信じる?」

「疑いがある場合はね。“疑わしきは罰せず”だから…」

「…あなたは正しい。疑わしければ、男性を罰しない。だから、3時間前、娘さんを学校の前で拾い、アル(アレクサンダーのこと)がいた部屋に住む男性に紹介。かわいい子ね。年齢より大人に見える。…よくしてくれるはず。彼女も興奮してた」 



慌てるウォーカーは娘の居場所を聞き出そうとするが、キャシーは簡単に応じない。

 

ついに、キャシーの言うことが正しいと認めざるを得なかった。

 

「あなたが正しい」

「とても簡単よね。正しく考えるのって。愛する人だと見方が変わる」 



キャシーは、彼女をアルのいた部屋に連れて行ってはいないと告げて、去っていく。 

ウォーカーの娘(左)にファンのバンドの撮影場所を教える


いつものように、キャシーはクラブで酔ったふりをして、男をキャッチした現場をライアンに目撃され、声をかけられた。 



説明しようとするが、動揺するライアンに拒否される。 



3番目に向かったのは、レイプ事件を揉み消したグリーン弁護士の家。

 

「あなたに審判が下る日よ」


「待っていた」

 

精神を病み、長期休暇中のグリーンは、7年前の事件について問い質(ただ)すと、覚えていると言うのだ。

 

「示談に持ち込むたび、特別手当が出た。告発を断念させた場合も金が出た」 



グリーンはキャシーに許しを求める。

 

「助けてほしい。眠れないんだ。もう長いこと。決して自分を許せない。分かってほしい。過去の行いのせいで、自分を許せない」


「あなたを許す」

「すまなかった」

「眠りなさい」 



その直後、キャシーはニーナの母に会いに行った。

 

「一緒にいなかったことで、自分を責めないで」


「正したいの」 

「そんなことできない。子供じみた執着だわ」


「私が一緒に行けば…」

「私もつらいけど…キャシー、前に進んで。お願い。みんなのために」

 

その直後、キャシーはアルのウェブサイトを削除し、男たちへの復讐を書き刻んだメモ帳をゴミ箱に捨てた。

 

―― この時点で、キャシーの医学生時代の馴染みの者たちへの訪問目的が、性暴力で傷つき、自死した親友・ニーナのリベンジである事実が判然とする。

 

ライアンとの再会が、その契機になっていたのだ。

 

だから、ライアンとの再会以前のキャシーの性的放縦のトリックという奇妙な行動は、女の匂いに蝟集(いしゅう)する男たちの愚昧さを蹴り付け、踏み潰すことで憂さ晴らしする、彼女なりのリベンジ方略だった。 



そのキャシーは今、ライアンの家を訪ね、自分の素直な気持ちを告白し、程なく関係は修復していく。 

店で沈んでいるキャシー


順調に交際が続き、キャシーはライアンを自宅に招いて、両親に紹介するに至る。 



そんな折、先のマディソンが、ホテルの部屋の男の件で返事がないので、キャシーを自宅の前で待っていた。 



男が何もしなかったと聞き、不安を払拭したマディソンは、ホテルの部屋でニーナに思いを馳(は)せたと言うのである。

 

「私たちが取った態度のこと。それで思い出した…動画があった。バカげたやつよ。回ってきたの。私やみんなに。あの頃は、ちょっとした噂になっていた…電話は全部、取ってある。写真とかも。あの頃は、みんな、これを見て…面白いと思った…」 




マディソンはその携帯をキャシーに渡し、「二度と連絡してこないで」と吐き捨て、帰って行った。

 

キャシーは、恐る恐るその動画を再生すると、あろうことか、その現場にライアンがいたことが判然とする。 

動画を見て衝撃を受ける



キャシーは考え抜いた末、仕事中のライアンを訪ね、携帯の動画を再生して、誤魔化そうとするライアンを恫喝する。

 

「この動画をあなたのアドレス帳、全員に送るから。両親や同僚たち、昔の仲間や、その妻にも。アル・モンローの独身最後のパーティの場所は、どこ?」


「許してくれ」


「ムリよ」

 

キャシーの冷たい反応に開き直るライアン。

 

「僕は何もやってない」

「なるほど。罪なき傍観者ってわけね」 



キャシーは鼻で笑いながら出て行く。

 

いよいよ、キャシーは入念な準備をして、覚悟を決め、レイプ事件の本丸に向かっていく。


 

 

2  「罪なき傍観者」を断罪し、復讐劇が自己完結する

 

 

 

山奥のパーティー会場に乗り込むや、男たちがナース姿のキャシーを見て興奮する。



キャシーは全員を跪(ひざまず)かせ、酒で手懐(てなず)け、酩酊状態にして、一人、乗り気ではなかったアルを2階に誘導していく。

 

本丸に射程を収め、攻め入っていくのだ。

 

「自分を守るため」と言って、ベッドでアルに手錠をかける。 



名前を聞かれたキャシーは、迷いなく、「ニーナ・フィッシャー」と答えを返した。 



アルは事の次第を理解し、必死に弁明をする。

 

「あんな告発は、男にとって地獄の悪夢だ」


「じゃ、女にとって地獄の悪夢は?」

 

アルは半べそをかき、助けを求めて叫ぶが、薬で酔わされ、階下に寝そべっている友人たちの応答はない。 



「…彼女は崩れた。突然、別の何かになった。あなたのもの。行く先々で聞こえるのは自分ではなく、あなたの名前。あなたの名前が、ついて回った。いつ、どんな時でも。そのせいで、命まで失った…最後に彼女の名前を聞いたのはいつ?私以外に彼女を思った人は?ものすごく悲しいよ。だってアル、あんたにこそ、彼女の名がついて回るべきだから」 



キャシーはアルに注射をしようとして、身体に乗り上げると、片方の手錠を振り解(ほど)いたアルが、キャシーを抑えつけ、窒息死させてしまうのだ。 


結婚を間近に控え、激しく動揺する男。 



翌朝、部屋に入って来た親友のジョーが、泣き伏し、混乱するアルを宥(なだ)め、事故としてなかったことにするように指示するジョー。 


動画を撮って、友人間に回した張本人である。

 

「俺は刑務所に入るのか?結婚式や仕事はどうなる?アナスタシアに愛想を尽かされる」


「これは事故なんだ。刑務所には入らない。誰にも知られないから。彼女は昨日の夜、帰った。ストリップの後、帰ったんだ」
 


ジョーの提案に同意するアル。 


それ以外の逃げ道が存在しないからだ。

 

アルとジョーは、山奥の水辺。でキャシーの遺体を焼却する。 



捜索願を出した両親に話を聞いた刑事がライアンを訪れ、キャシーの情報を得ようとするが、ライアンは何も知らないと答えた後、「いい状態ではなかった」と言い添える。 



彼もまた、それ以外の反応の術がないからだ。

 

そして迎えた、アルとアナスタシアの結婚式。 



そこには、ライアンも出席していた。

 

携帯にキャシーからのメッセージが届いたのは、ハッピーなセレモニーの真っ最中だった。 

「カサンドラ・トーマス」とはキャシーのこと



グリーン弁護士の元にも、キャシーからの封書が届く。 



そこには動画が記録された携帯と、“私が失踪したら、警察に届けてください…山小屋57号、パーティ”と書かれたメッセージが添えられていた。 



予約送信されたキャシーからのメッセージを読むライアン。 


「“終わったと思ってないよね?”」 



結婚式会場に警察車のサイレンが鳴り、山小屋付近では遺体の捜索が行われている。 



「“これからよ”」

 

これも、ライアンへの予約送信。

 

精神的に追い詰められていく「罪なき傍観者」。 



混乱する結婚式の渦中で、アルは警察に逮捕される。 



「“愛をこめて”」

「“キャシーとニーナより”」 


死者からのラストメッセージである。

 

「罪なき傍観者」を断罪し、復讐劇が自己完結したのだ。

 

 

 

3  実に手強いもの ―― その名は、「『被害者に課せられる立証責任』という理不尽さ」なり

 

 

 

「この民事裁判で同意がなかったと認められたことは、その点に関してはとても大きいのではないかと思います」 



これは、元TBSテレビ記者の山口敬之氏から性暴力を受けたとして損害賠償を求めた裁判で、一審に続いて、「同意はなかった」として、山口氏に対しおよそ332万円の支払いを命じた東京高裁の判決を受けての、ジャーナリスト・伊藤詩織さんのコメントである。

 

「デートレイプドラッグを入れられた」としている点については、「真実性が認められない」と判断されたが、最も重要な「性暴力の同意性」は否定されたのである。

 

この記事は、TBSテレビの放送をほぼ引用したもので、TBSテレビは、「元社員在職中の事案につきまして、伊藤詩織さんのこの間のご心痛に対しまして大変申し訳なく思います。引き続き社員教育やコンプライアンスの徹底に努めてまいります」とコメントしている。(「伊藤詩織さんへの性暴力訴訟二審も『同意はなかった』山口氏に賠償命じる」TBS NEWS 2022年1月25日) 


「当時は性被害について語る風潮が珍しいとされていたかもしれませんが、2017年の10月に#MeTooの動きが始まり、それにより報道の流れも変わったと、身をもって変化を感じていました」

 

これは、2017年5月に記者会見を開き、性被害の事実を公表した際の伊藤詩織さんの言葉。

 

「(高裁で)負けてしまったら本当に日本に住めなくなってしまうのではないか、という恐怖」(詩織さん)の中で語る言葉の重さは、生半可ではなかった。

 

被害を公表したことで相次ぐ誹謗中傷を乗り越えた、一人の女性の勇気ある行動は、我が国のMeToo運動(「私も性暴力の被害者」)の先駆けとなり、性的暴力の被害者による街頭スピーチ・「フラワーデモ」(2019年4月から毎月開催)の広がりに結実されていく。 

フラワーデモ東京(ウィキ)

           「フラワーデモ」東京はオンライン開催となり主催者だけが集まった



伊藤詩織さんは、性暴力被害に遭っても声を上げられなかった日本社会の負の歴史を変えていったのだ。

 

「声をあげたら必ずどこかに届く」(同上)社会が、我が国でも今、少しずつ、しかし確実に変容しているのである。(「伊藤詩織さん『声をあげたら必ずどこかに届く』被害公表からの日々を振り返る」参照)

 

―― 「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観て、私が真っ先に想起したのは、伊藤詩織さんの控訴審のこと。

 

「茜色に焼かれる」のコメントで、「人に起きたことなら怒れるのに、なんでだろう。自分の怒りと素直に向き合えた時、人は解放されるのかもしれない」と自らを重ねるように書いたように、詩織さんは映像作家だから、「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観ていると思うが、この映画の訴求力は半端ではなかった。 

本丸の中枢で復讐を完結させるキャシー


性暴力が普通に横行し、この性的暴力を、基本的に被害者である女性の問題に転嫁させる現象が一般化している文化を「レイプ文化」と言う。 

ブラジル女性たち「レイプ文化」に激しく抗議


この「レイプ文化」が生む物語が、「被害者が抵抗すれば逃げられたはず」などという「レイプ神話」である。 

レイプ神話/「そんな場所を歩いていたお前が悪い」


これは、被害者にも責任があるという「ヴィクティムブレーミング」(被害者非難)や、「公正世界信念」という思考様態と同義である。 

レイプ被害者が直面する「ヴィクティム・ブレーミング」

ネットの誹謗中傷の要因“公正世界仮説”


だから、厄介なのだ。

 

「レイプ神話」・「ヴィクティムブレーミング」・「公正世界信念」。

 

この巨大な障壁が、性暴力のハードルを極端に低くする。

 

「学生だった10年前は当たり前だったけど、今考えるとひどいことが許容されていた。性別関係なく自分の周りの人を見ても思い当たることが出てくる。それらを集団として許容してきた経緯を紐解いてみたかった」(エメラルド・フェネル監督インタビュー) 

エメラルド・フェネル監督


作り手の映画化のモチーフの率直な表現である。

 

性暴力が時代超えて繰り返されてきたこと。

 

だから、「レイプ文化」と化していたのである。

 

加えて、性暴力が、ごく普通に社会適応を果たしている者たちによって繰り返され、且つ、それが「社会の流れの一部」としてスルーされ、暗黙の了解のうちに処理されていたこと。

 

不文律だったのだ。

 

「本作に登場する男性は、誰も悪者なんかじゃない…どの登場人物も社会の流れの一部だっただけ。セックスに対する意識や、そこに至るまでの姿勢が、ほんの少し間違っていただけだった。重要なのは、本作に悪者がいないということ。登場人物が過去に犯してきた過ちは、いつの時代も繰り返されてきたこと。物語の根柢にある疑問は、“誰もが許容してきたのに、なぜバツが悪いのか”」

演出中のエメラルド・フェネル監督


これも、作り手の映画化のモチーフの吐露で、ここに加える言辞の何ものもない。

 

伊藤詩織さんが「公共性および公益目的」のために戦っていると、東京地裁が明確に認定したにも拘らず、彼女が被弾したが性暴力が「事件」とならず、民事訴訟でしか扱えなかったことを、私たちは忘れてはならないだろう。

 

且つ、性暴力が見知りの者によって繰り返されてきたこと。

 

これが、最も厄介なのだ。

 

「同意性の壁」という問題が立ち塞がっているからである。

 

このことは、立証責任が被害者に課せられているという現実の重みによって判然とするだろう。 

性暴力の立証責任が被害者に課せられている現実の重さ


性暴力の動画でもない限り、この巨壁を超えられるわけがないのだ。

 

「プロミシング・ヤング・ウーマン」は、この巨壁を超える手品を開示して見せた。

 

―― ここで、刺激的、且つ、マジックの如き、幻想を被せた究極の復讐劇を描いた映画について、簡潔に言及する。

 

ライアンとの再会以前のキャシーの性的放縦の行動は、彼女基準の「ニーナ喪失」の悲嘆のプロセスでもあった。 



しかも、「性暴力被害者」を特化し、記号化したために、ニーナの回想シーンを、映画は意図的に排除する。 

唯一、提示されたニーナとキャシーが写っている写真


そして、意図的に排除した映画は、ライアンという最も重要な登場人物を提示した。 


この前途有望な小児外科医との再会によって、キャシーの悲嘆が癒されていくのだ。

 

彼の誠実な人柄に惹かれていったからである。

 

だから、ライアンを自宅に招いて、両親に紹介した。

 

「前に進んで。お願い。みんなのために」 



ニーナの母から、このように懇願され、キャシーはもう、「男性愚弄」の記号であったメモ帳を持つ意味を失う。 


メモ帳をゴミ箱に捨てるというカットが、そのことを暗示している。 

メモ帳をゴミ箱に捨て、前に進もうと決心するキャシー


これは、何を意味するのか。

 

言うまでもなく、「ライアンとの蜜月」の選択というキャシーの意思表示である。

 

ではなぜ、ハッピーな選択肢があるのに、それを捨て、キャシーは死を覚悟してまで、一連の復讐劇に突き進んだのか。

 

事件の動画を見てしまったからである。 

ライアンも性暴力の現場にいたことを知り、衝撃を受ける


マディソンから提供された動画のインパクトは決定的だった。 

動画を皆で回して見ていたことを吐露するマディソン


ライアンに対する彼女の想いが自壊したのだ。 

悲嘆に暮れるキャシー


「僕は何もやってない」と開き直るライアンに対して、キャシーはそれ以外にない言辞を浴びせた。

 

「罪なき傍観者ってわけね」 


これで、「ライアンとの蜜月」が終焉する。

 

かくて、開かれた復讐劇。 



この言及は不要である。

 

マジックの如き、幻想を被せた映画の訴求力は高かった。

 

―― 最後に一言。

 

「私のせいじゃない。泥酔すれば、何か起きる…望まないセックスでも、誰も味方しない」 


キャシーに追及された時のマディソン弁明である。

 

この言辞は、当事者意識の顕著な低さのみならず、女性もまた、「レイプ神話」に加担している現実を端的に示している。

 

実に手強いもの ―― その名は、「『被害者に課せられる立証責任』という理不尽さ」なり。

 

時代は少しずつ、しかし確実に変容している。

 

私たちは、この巨壁を打ち破っていかねばならない。

 

そのことを痛感させてくれる、何ともエキサイティングな映像だった。 

男たちを愚弄することで、「悲嘆」を繋ぐ

本丸に踏み込んで、アル以外の男たちを眠らせる


(2022年2月)

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